旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

 一つ、三十歳の誕生日を迎えるまでに結婚する。
 二つ、結婚した年の誕生パーティで近親者に結婚相手を紹介する。
 三つ、結婚後一年以内に子をもうけるよう、夫婦で努力する。

 高校を卒業した頃に初めて聞かされたその家訓について、俺は率直に疑問に思ったことを父親にぶつけた。

『……誕生パーティーって、昔はそんなものなかっただろ? いったいいつの時代に作られたんだよその家訓』

 すると父親は大げさに肩をすくめて言ったのだ。

『マンマミーア! ……ばれてしまっては仕方がない。二つ目と三つ目は、この私が勝手に追加したんだ』

 念のため言っておくが、父は日本人である。ただし重度のイタリアかぶれで、着るものも乗り回す車も晩酌のワインも、イタリア産にこだわっている。

 祖父の代までは『海老名ホテル&ブライダル』という創業一家の苗字がわかりやすかった社名も、父の趣味でよくわからない『ガンベロ』という名に変わった。

 どうやらイタリア語で〝車海老〟という意味らしい。洒落のつもりだろうが、完全にスベッている。

< 45 / 151 >

この作品をシェア

pagetop