旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
しかし、父のなにより面倒なところは、例に漏れずイタリアかぶれの恋愛観。
積極的で、情熱的で、ストレートに愛情表現をすることを美徳とするため、息子である俺が許嫁の女性に対してあからさまにそっけない態度を取っているのをよく思っておらず、年々家訓について口うるさくなっていた。
しかしそんなことで、家の都合で勝手に決められた許嫁を愛する気持ちが生まれるはずもない。
おざなりなデートを繰り返すばかりで、結婚に対しても義務的な態度を崩さなかった俺に、結局は許嫁の女性が愛想をつかし、彼女との婚約は破談になった。
どうやら俺に海老名家の家訓は守れそうにないと最近はあきらめ半分だったが、理子という、初めて心から愛することができそうな相手ができた今、結婚という言葉にかすかな希望を抱き始めているのは事実だった。
しかし、理子は俺の家の事情はまったく知らない。折を見て話さなければとは思うものの、今はまだ勝手に提出された婚姻届のことで混乱しているだろうし……。
複雑に絡まる思考を一つひとつ処理しつつ、俺は目の前の叔母に釘を刺した。
「彼女にはまだ誕生パーティーのこと話してないから、くれぐれも勝手に言ったりしないでくださいね、叔母さん口軽そうだから」
「失礼ね! まったくかわいくない甥なんだから!」