恋歌はクリスマスを彼と過ごしたい
「あの、村田さん」

 恋歌はたずねた。

「クリスマスってどうするんですか」
「どうするって……何を?」
「予定とかないんですか」
「ないね」

 短い変じに恋歌は口をへの字にする。

 相変わらずだけど何なのこの男。

 もうちょっと愛想良くできないの?

 とはいえこれは平常運転。

 恋歌は身を乗り出してモニターを眺める。

 どうやら昨日の分の営業報告書を作成しているようだ。そういえば昨日は会社に村田が帰ってこなかったなと恋歌は思い出す。

 退社時間に営業部をのぞいたとき他の営業部員に直帰を知らされたのだ。

 報告書によると昨日は八王子方面を回っていたらしい。まあ、これは部内のホワイトボードを読んでもわかることなのだが。

 壁にかかったホワイトボードには営業部員の行動予定がそれぞれ書かれている。

 ちなみに今日の村田の欄にはまだ記入されていなかった。

 恋歌が村田の顔のすぐ傍まで寄っていたからか、村田が椅子を滑らせて距離をとる。

「中野さん、邪魔なんだけど」
「……」

 あ、また邪魔って言われた。

 恋歌はモニターから村田へと視線を戻す。

 露骨に迷惑そうな顔があった。
 
 
 
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