恋歌はクリスマスを彼と過ごしたい
 村田の困り顔を見て恋歌はつい意地悪がしたくなる。

 彼女はぐいと身体を寄せて村田とノートパソコンの間に割り込んだ。

「中野さん、本当に邪魔なんだけど」

 うん。

 邪魔したくて邪魔しています。

 にこりとした。

「えへへー」
「ええっと、これ我孫子部長に提出しないとまずいんだ。できれば早く仕上げたいんだけど」

 村田が頬をかいた。

 恋歌はうーんと考えるふりをしながら腕組みする。わずかに頭を傾げて自分の首のラインを際立たせた。

 ほーら見て見て。

 この色っぽい仕草にくらっとしなさい。

 だが、村田にくらくらした様子はない。それどころか微妙に苛ついたように目を細めた。

 あ、これは失敗かも。

 恋歌は無言の訴えに切り替えた村田にあっさりと敗北を認め、すうっと身体を離す。やれやれといった具合に肩をすくめて村田がキー操作に戻った。

 カチャカチャという音を聞きつつ恋歌は声をかける。

「クリスマスに誘いたい相手とかいないんですか?」
「いないね」

 即答された。

 えーっ、私がいるじゃない。

 という言葉は飲み込んで、ついでにひっぱたきたい衝動もどうにか堪える。

 落ち着け。

 こんなのいつものこと。

 恋歌はにこにこと笑んだまま、しかし腕を後ろで組み直し、自分で自分の手の甲をぎゅーっとつまんで怒りを痛みでごまかした。
 
 
 
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