恋歌はクリスマスを彼と過ごしたい
 やはり村田から誘ってくれるのを期待するのは無駄か。

 恋歌は百分の一いや一万分の一の確率を放棄して別の手に移る。

「えっと、じゃあ私とどこかに行きませんか」
「行かない」

 またも即答された。

 恋歌は顔を引きつらせかけるが、自分でもぎりぎりな忍耐力で笑顔を取り戻す。

「あのーどうしてダメなんですか」
「いや、仕事あるし」

 今年のクリスマスは平日である。

 社内に有休を取る人もいるが、恋歌も村田も休みは取っていなかった。

 よって二人とも出社予定だ。

 もっとも村田さえその気になってくれれば二人でお休みというのもやぶさかではないのだが。

 恋歌は村田の肩にぴとっと自分の肩をくっつける。

 村田の手は止まらない。

 それが何だか悔しくてそのまま体重をかけた。

「中野さん」

 と、村田。

「重いんだけど」
「……」

 失礼な。

 恋歌は内心で言い返した。

 私、重くなんかありません。

「村田さんがお休みしてくれたら私も有給使うんですけど」
「ん? どうして?」
「そんなの言わなくてもわかるじゃないですか」

 手が止まった。

「全然わからないんだけど」
「……」

 ……嘘。

 マジで言ってるの?

 ありえないんだけど。

 恋歌はついぴくりとしかけるこめかみを手で隠す。その流れで髪を梳いた。

 我慢我慢。

 これも戦いよ。

 この程度で負けてなるものですか。
 
 
 
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