いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「な、に言って……っ」と、耳を疑いながら真衣香が反論しようとするも、喉に引っかかり、また咳をして途切れさせてしまった。
八木が背中をポンポンとさする。その間に真衣香の方へ顔を近づけ「ちょっとだけ合わしとけ」と囁いた。
「は? いやいやいや、何言ってるんですか、おかしいでしょ。 そんな売り言葉に買い言葉の延長で」
坪井の声がうろたえている。
そりゃそうだ……。と真衣香は心の中で同調した。何を〝合わせて〟いろというのか、わからない。
「お前には言われたくねぇな。ま、とりあえず、別れたって言うんならこいつと関わる前の生活に戻れ、いいな」
「……前に、って」
繰り返すように坪井が呟く。その声に被せるようにして八木が言った。
「手離すってそーゆうことだろが。 わかってねぇなら下手な遊びしてんじゃねぇぞ。 それも、割り切った考えなんて微塵も持ってない女相手にな」
言い切った八木に、次こそ坪井の反論はなかった。
「俺が一番気にいらねぇのはそこだ」と捨て台詞を吐き、八木が歩き出して、ガチャリとドアノブをひねる音が響く。
その時、微かに鼻をかすめたのは柑橘系の爽やかな香り。
(……坪井くんだ)
真衣香はそう思ったけれど、ついに八木の肩に顔を埋めたまま姿を見る勇気は持てなかった。