いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
昨日の夕方の電話で、確かに『明日は、俺朝からいないけど。残ってる仕事はないと思うから無理すんなよ』と言ってくれていた。
杉田も会議でフロアに顔を出すのは午後からになると聞いているし、頼れる人が少ない分、何事もなく1日が終わればいいと思いながら出勤したのだ。
「はは。そっか、話してたんだ。 まあ、上司だもんな」
全然楽しくなさそうに笑い声をあげる坪井に、真衣香は眉を潜めた。
「てか、話しかけてるし八木さんがいたら怒られるとこだったね」と、また困ったように笑うけど、どう反応を返せばいいのかわからない。
そうして当たり前のように坪井が、真衣香の掃除用具の一つであるバケツを手に持った時。
やめてほしい、と。止めようとする真衣香の声よりも先に、突如騒めいた空気。
散らばる声を拾おうと、坪井は耳をすませるようにして動作を止め、それからすぐに目を細めた。
「……へえ、なにこれ、いつからだろ」
どうやら坪井にも、耳を疑いたくなるあの噂話が聞こえたようだ。
「……わからない、さっき何となく聞こえただけで」
「そっか、さっきね。 お前休んでたもんね」
そう言って、うーん。と何か考えるように小さく唸る姿。その隙に真衣香は坪井の手からバケツを奪い取る。
「そ、それじゃ、行くね」
短く声をかけると真衣香は精一杯、バケツの水がこぼれない程度に走って坪井から遠ざかった。
「え、あ! 立花!?」
走り去った、その背後では慌てたような坪井の声が響いたけれど振り返る勇気なんて真衣香にはなかった。