いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


思わず、誰かに見られていたらどうしよう、と。ハラハラと周辺を見渡したのだが。

「人事部か? もう誰も残ってなかったぞ」

焦る真衣香の気持ちなど、お見通しだと言わんばかりに八木は言う。

「は、はい。 あの、この、手は、一体」

泳いでいる真衣香の視線を、八木がつぶさに追って来るので、よくわからないが恥ずかしくなって目を瞑った。

しかし。

「つきあっとくか、俺と」
「…………はい?」

あまりにも唐突な提案に、すぐに目を開ける羽目になってしまった。

「な、なに、何言ってるんですか!?」

今度は真衣香が、パチパチと何度も瞬きを繰り返しながら大きな声を張り上げた。

「あ、待て待て。 からかってんじゃねーぞ、当面俺の女だってことにしとけば、坪井との方が間違いだったってなるだろ」
「な、なりますか?」
「単純だからな、噂なんて」

やけに軽く言うので、真衣香は気になって仕方のないことを聞いてみた。

「八木さん。 助けてもらっておいて意見するのはよくないと思うんですが……」
「なんだよ?」と聞き返すけれど、八木は、まだ真衣香の手首を掴んだまま離そうとはしない。

「私を抱き抱えて助けてくれたり、つ、つきあってるフリをするだとか……八木さん確か恋人いらっしゃいましたよね」

人伝に、それこそ噂程度に耳にしただけの情報だけれど。
真衣香が総務に配属されてから、何度か八木の恋人の存在については耳にしてきた。
一応は『八木』の名を持ってYフーズセレクトに在籍しているのだから、彼とつきあえれば社内での生活や待遇は安泰するだろう、なんて。
そんなふうに話す声を、更衣室やトイレで何度も聞いた。

< 195 / 493 >

この作品をシェア

pagetop