いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


「お前さ、八木さんのこと好きになったの?」

低い声が真衣香の身体を這うようにして、耳に届く。それと同時、肩を痛いほどに掴まれ、ぐるりと身体の向きを変えられた。

「きゃ!? い、痛……っ」

声を発したが、ドン!と、響いた音と衝撃で弱々しく消えていってしまう。
背中に痛みを感じながら、真衣香は自分が壁に押さえつけられていることを理解した。

「な、なんで……」

「あの人いつもあんな風にお前に触るの? なぁ、お前はそれを許してるの?」

抑揚のないそれは思い返せばいつも、彼が心に怒りを持っている時に現れている気がする。

「つ、坪井く……、なんで」

驚愕しながらもようやく名前を呼ぶと、坪井は鋭く細められた目で真衣香を見据えた。
至近距離で揺れる瞳は、まるで漆黒。そう見えてしまうくらいには何も読み取ることができない。

数秒の沈黙の後。真衣香の肩を掴んだまま、もう片方の手を耳のすぐ隣で壁に打ち付けた。
また、鈍い音が響く。

「どうしたらいい、俺」
「……坪井くん?」

感情のなかった声に、弱々しさが宿った。声が少し、震えている。

「わからないんだよ」
「な、何が? ねえ、坪井くん」

腕を上げて、坪井の胸元を押し返そうとするがビクともしない。

「あれからずっと怖い」

「ちょ、ちょっとほんとにどうしたの、坪井く……」

「やっぱ今回も好きだと思えなかったって、それで終わりで、いつもそうだったのに。 なのに、なんでお前は違うの」

真衣香の目の前で、苦しそうに声を絞り出す姿。 
漆黒だと感じた瞳は、今はゆらゆらと揺れて真衣香の姿を映している。 彼の心の中が揺れているように感じた。
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