いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


力任せに叫んだ声は醜く割れていて、けれど制御することができない。初めての経験だった。言葉を選ばず叫び続けるなんて。

「もうやだ、お願い、もう嫌なの、触らないで……!」

腕を振り上げ、坪井の胸を叩いた。
何度も繰り返し、力を込めて。

「……立花」

ドンドンと拳を打ち付けられて、けれど、されるがまま坪井は真衣香に呼び掛ける。

喉が痛くなるくらいに叫び続けている真衣香とは対照的に坪井の、その声は小さく弱々しい。
しかし、今の真衣香にはそれを気遣う余裕など持てなくて。

「嫌い……」
「え?」

不意に出た言葉。振り下ろされる真衣香の攻撃を受け止め続けていた坪井が、その手を掴んで聞き返した。

動きを制御された真衣香。
けれど真っ直ぐに目を見つめながら、もう一度、今度は大きな声で言い放った。

「坪井くんなんて、大嫌い……!」

乱されて、どうしようもなく荒む心。
本当は、はち切れそうなほど心臓が脈打ってる。

あのキスに、あのまま溺れてしまえたらと思った自分がいた。確かに、いたから。

『大嫌い』は、まるで祈りだ。きっと、そうなればいいと願う感情だった。
言葉にしたなら真実になって。この苦しさから逃れられるのではないかと、思った。

(だって……、もし)

もしも、この言葉を受け入れて。
またすぐに、あの日のように冷たい笑顔を向けられたら次こそ、きっと次こそ……

立ち上がれない気がするから。

掴まれていた手首を振り解き、動かない坪井の横を逃げるように通り過ぎた。
そのまま給湯室を飛び出し、フロアの外を目指すが……。
真衣香がドアを開くよりも先に、ガチャリとドアノブが捻られ八木が戻ってきてしまった。

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