いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました

「エントランスのとこまで響いてましたよ、怒鳴り声。そんな脅かして何になるっていうんですか」

広い背中が、真衣香の視界を覆う。
それだけで、張り詰めていた心に、呼吸をする隙間ができたみたいだ。
息苦しさも、消えてゆく。

「はあ?そりゃ怒鳴るだろ、お前だって知ってるよな!?明日企画書と一緒に工場からのサンプル間に合わせないと話にならないって!」
「ああ、部長に春の販促イベントに繋げろとか言われてたやつですよね。そりゃ知ってますけど」

怒りで顔を赤くしながら、川口は力強く真衣香を指差した。

「この女!その荷物無くしやがったんだよ、あり得ないだろ!?会社に何しに来てんだよ、お前の女だか何だかしらねぇけど、マジで使えねぇって!」

坪井の影に隠れるようにして、川口からは見えにくくなった真衣香。
逃がすまいと川口は距離を詰め、怒りをぶつけ続けるのだが。
それに怯える真衣香の肩を、ポンポンっとなだめるようにして坪井が触れた。

「大丈夫だよ、この人焦るといつもこうだから」と穏やかに耳打ちしながら。

しかし一転。

「この女とか使えないとか、まあ、好き勝手言いますね」

川口を見据えて、坪井が放った声。
あきらかに、苛立ちを感じさせた。
真衣香は恐怖が支配する心の中で、思わずハッと思い返す。

(つ、坪井くん、怒ってる……?)

トリガーはわからないが、坪井はスイッチが入ると存外ややこしい性質の怒り方をする。
内心焦った真衣香だったが、次に聞こえたきた声は思いのほか落ち着いたものだった。

「ははは。まあ、誰の女でもなんでも、とりあえず落ち着いて下さいって。開発がギリギリ工場に発注かけた分ですよね?ちょっとそれ見せてもらってもいいですか?」

川口とは真逆。坪井は冷静に、彼が手にしているFAX用紙を求めた。
手渡され、それをじっと見つめる。


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