いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
おとなしく聞き手に徹している坪井と笹尾の間に、割り込むように高柳が歩み寄り、そっと耳打ちした。
笹尾に、だ。
「笹尾さん、立花さんの印鑑は特徴ありますね、ピンクのケースで猫なんかついてて可愛らしい。すぐに彼女のものだとわかりますね」
「……え? はい」
「今日営業部にそれを忘れて行ったのは偶然でしょう、これまでにも何度かありましたから」
「……はい」
「それを知った上で、突発的に思い付いたのか、計画的にずっと頭にあったことなのか。 それはわかりませんが、こちらの件に関しても、次はないと思って下さい」
高柳の影を避け、笹尾の表情を見る。やはり、なぜ、部長まで立花さんを庇うんですか? そう、目が訴えていた。
「人は大抵猫をかぶって生きてるものです。彼女の印鑑のように本当に可愛らしい猫になる必要はありませんが」
高柳の低く無機質な声が、何とか坪井にも届くくらいの小さな声で話し続けている。
「人が離れていかない人間というものを、彼女を模範して演じていなさい。君には、直接的に"変われ"と言うよりも、それが手っ取り早いでしょう。要領良く働いていたいなら、ですが」
「……は、はい」
「俺は、職場に身内感覚の馴れ合いはもちろん求めませんけど。意思疎通ができないほどに凝り固まっているのも求めていません。程よくお願いします」
ゆっくり言い聞かせるように伝えられた言葉。それは、坪井への忠告であるようにも聞こえた。
そうでなければ、聞こえないように配慮して笹尾に伝えるのだろうから。
その後はパッと姿勢を戻し、今話し始めましたと言わんばかりの様子で、川口にも聞こえる、フロアに通る声で話し始めた。
「笹尾さん。川口のことは申し訳なかったね。また次に何かあれば、増員や担当の入れ替えも含めて検討しますので」