いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


だが、そんな幸福感はすぐに消える。脳内で『クリスマス』と真衣香の声が反復されてしまったから。
ドクドクと、次は奥から殴りつけられるような心音。

「あー、っと、あのさ……クリスマスっていえばさ」
「うん?」
「お前はなんか予定あるの?」
「……え?」

真衣香が黒目がちな愛らしい目を大きくあけて真っ直ぐに坪井を見上げた。

(あ、やば……。なんで聞いたんだって俺、バカだろ)

真衣香の唇が動きを見せた途端、怖くなった。

気になっていたことは確かだ。けれど、知りたかったかと己に問い掛ければ、悩まずとも答えは『ノー』だ。
しかも真衣香にしてみれば『何であんたなんかが私のクリスマスの予定聞いてくんのよ、頭大丈夫?』くらい言いたくもなるだろう。
……まあ、真衣香はこんな口汚く罵ってきたりはしないだろうが。


「……どうして、急にクリスマス……」
「や、ほら、イブだなぁ今日! とか、思い出してさ。た、他意はないからほんとに!」
「……他意って」
「今日は平日ど真ん中だしさ、まぁそんな気にもならないけど。明日は金曜じゃん、クリスマス当日。 八木さんと約束でもしてるのかなって。ははは……」

(聞いてどうするよ……)

語尾が小さくなってく自分の声が悲しいほどに惨めだった。

「や、八木さんとは……」

真衣香が何やら気まずそうに視線を逸らして八木の名を出した。
しかしその声の続きは「俺が、なんだって?」と、明らかに真衣香のものではない声で。

真衣香が「あ」と声を出して、坪井の背後をじっと見た。
坪井はそれに続くようにゆっくりと振り返ると。

「何こんなとこで突っ立って話してんだよ、寒いだろが風邪ひくぞ」

グレーのスーツに同色のネクタイ。ピンクのシャツを嫌味なく、そして憎らしいほどにスラリと着こなす、八木の姿がそこにあった。

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