いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「あ……! は、はい! すみません」
慌ててシートベルトを引っ張った。
「まぁ、嫌でも記憶に残るもんだよな、好きな女ってのは」
その様子を横目で見ていた八木がボソッと何かを声にしたのだが。
「……え? 何て言いました?」
よく聞き取れず、聞き返してみるも。ぐしゃぐしゃと頭を撫で回されて「別になんも」と、きっとはぐらかされてしまった。
「お前のさ、好き嫌いなんて一緒に飯食いに行ったら丸わかり、バレバレだったんだけど。気づいてたかよ」
「何がですか?」
「俺がわざとトマト系のもん頼みまくって、食いきれねぇってお前に食わせてたの」
そうだ。八木は、夜に真衣香を強引に誘うことこそなかったが、ランチの時間帯なんて。それはそれは、仕事がひと段落していない真衣香の事情などお構いなしによく強引に連れ出された。
その度、真衣香の好きな店に入ってくれるのはいいとして、なぜだか『頼みすぎたからお前も食え」と、小皿に取り分けられ食べさせられたものだ。
……苦手なトマトソース系のパスタや、ケチャップライスや、あれやこれやを。
「食えって言われたら……食うんだもんなぁ、お前。かなり面白い顔して食ってたんだって、知ってたか?」
八木がアクセルを踏んだのか、ゆっくりと車が動き出して。
隣をチラッと見ると、ハンドルに片手を添えて、もう片方の手で口元を押さえる八木の姿があった。
「っぶ……! マジでおもしろかったわ、あの顔のおかげで昼からも元気に働けたな」
「え、嘘、ひどい……」
上司の好意を無駄にしてはいけない!と、踏ん張っていた、必死の『トマト味ひとり我慢大会』は、どうやらからかわれていただけらしい。
許し難い事実に真衣香が口を尖らせていると、堪えきれなくなったとでもいうように、八木が声をあげて本格的に笑い出してしまった。
「食った後も、そうやって口尖らせてたよな。でもさ、トマトが嫌いなのかって聞いたら、そんなことないですよって引き攣った顔で笑っててよ、よっぽど俺に弱み握られたくなかったんだよなぁ、あれは」