いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


少なくとも咲山は坪井の中に潜む本音に気づいていた部分があったのではないだろうか?
”好きって言われたことある?”
それは、言わない坪井を知った上で、それでも一緒にいた彼女だから発することのできた言葉だ。対して”信じる”と口先ばかりだった自分がどうしようもなく恥ずかしくなった。

「それで、あの夜な。二択だったわけ、お前を好きだって気持ちに従うのか、悲壮な声出してる過去の自分に従うのか……で、後者だった。ごめん」

坪井が深く真衣香に対し頭を下げた。そしてもう一度。

「ごめん。俺の勝手な事情で、傷つけて。ほんとにごめん」
「そんな……」
「俺、二度も間違えようとしてたんだ。ごめん、立花」


掠れた、重苦しい声で何度も”ごめん”を繰り返した。
真衣香は何度か口をパクパクと動かしては、閉じてしまう。何を言葉にすればいいのかを考えると、怖くなった。
どれも間違っていそうだから。

(でも、そんなの……話してくれた坪井くんの方が怖いに決まってる)

懸命に過去と向き合ってくれている坪井。それに対し、正解か不正解かを悩んで何も返せないなんて。真衣香は自らの心を奮い立たせた。

(知りたいって言ったんだから、私が、他の誰でもない坪井くんのことを知りたいって)

生まれてくる情動に従うように身体を動かす。
ソファに乗り上がり、自分よりも大きな身体を力の限りに抱きしめた。
すぐ近く。坪井が息を呑んだのがわかった。何を思っているのだろう、わからない。それでも抱きしめ続けた。そう、したかったから。

「た、立花……?」

坪井の困惑した声が聞こえる。その声に被せるようにして真衣香は大きな声を出していた。

「好きになったその先なんて私も知らないよ……!」
「え?」
「だって、そ、そんなの、私と坪井くんが今から二人で一緒に見つけていくものなんじゃないの!?」

突然の大きな声に、ぽかん、と呆気に取られたような声が返ってくる。
ドクン、ドクン、と心臓が大きく高鳴り緊張を全身に伝えていた。まるで身体全体が脈打っているように激しい動揺だ。

(違うかもしれない)

坪井が望む言葉など送れないかもしれない。
いつだったか。坪井が真衣香の不安や焦りを掬い取ってくれた時のようには、できないのかもしれない。

でも、いくら悩んだって真衣香は坪井でないのだから。
真衣香は真衣香でしかないのだから。
だったら、思うままに声にしてみるしかないんだ。

真衣香自身の言葉で。
< 387 / 493 >

この作品をシェア

pagetop