これは恋ですか。
「そうか。
なるほどね。

その通りだよ。
子供の時は、双子の兄、威がいつも俺と一緒にいてくれて守ってくれた。
俺が利き手の右手で計算したり作業する間、反対の左手でずっと威の右手を掴んでいた。
威の右手は、俺を現実世界と繋いでくれる最後の一線だった。
威がいなかったら、俺はどうなっていたか。

だけど、それも大学まで。大学卒業後は、威とは別の道を行くことになったから。

是非にといわれて入った会社にいる時は久我の家から会社まで運転手に送ってもらってたりしたんだけど、会社内でも色々やらかしてね。

見かねた一条専務がここに引き抜いてくれたんだ。会社の中に寝泊まりするスペースも作ってくれたから、外には食事くらいでしか出なくて済む。

だけど、そうなると、アイデアが浮かばなくなってね。
外の世界の刺激が、好奇心に反応してアイデアが浮かぶんだよね」


私に向かって、久我さんがこんなに喋ったのは初めてかもしれない。
結構、困っているんだなぁ。


「そうだ。アイデアといえば。
ついでに、専務にお願いがあるんだ。

今、実はさ、アリオン社が提供した、映画館の新しい音響が気になってて。
実際体験してみたいんだよね。
一条専務、時間あるかな?」

「映画、ですか。
いつがご希望ですか?」

「出来れば早く知りたい。
今日、今すぐにでも!」

「当然、無理です。一人で行って下さい。
タクシー、手配しましょうか?」

「いや。
映画の内容はどうでもいいんだ。
ただ、映画館でパソコンを開くわけにはいかないから、状況を共有する相手が欲しいんだ。

補佐の子には逃げられたし」



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