俺様副社長に娶られました
「そろそろお時間ですよ」


神社のスタッフさんが呼びに来て、わたしは創平さんと一緒に控室をあとにする。
挙式の前に撮影があるので、わたしたちは境内に向かった。

ニコニコ笑顔で待っていた実沢さんが、ゲストたちを誘導する。


「お神酒は飲むな、絶対だぞ」


わたしの歩調に合わせてゆっくり歩きながら創平さんが強い口調で注意した。


「はい、もちろんです!」


それはわたしが酔っ払うと周囲に身の上話をして絡み始めるとか、翌日の頭痛が半端ないとか、あとこれはあんまり言いたくないんだけど脱ぎ出す、という大変迷惑な理由から、だけではない。

なんとお腹の中に創平さんとの赤ちゃんがいるのだ。今、妊娠四ヶ月。

わたしは悪阻はあまり酷くないタイプだったみたいで、匂いにちょっと敏感になったくらいでなんでも食べれたし、白無垢もお色直しの色打ち掛けも帯で調節してもらって着ることが出来た。

最近お腹の下の方が少しだけ膨らんできていて、無意識のうちに手をあてるようになった。


「足元には気を付けろよ」


とはいえまだ安定期に入る前だから、創平さんの心配性はすごい。
健診にも必ずついて来るし、エコー写真にえらく感動して、見せたときはしばらく微動だにしなかったし、大切にしている。


「気分が悪くなったらすぐに言えよ。無理するな」
「はい、大丈夫です」


わたしの横からぴったりくっ付いて離れない創平さんを見て、実沢さんは目を限りなく細めた。


「副社長がこんなに過保護だなんて知りませんでしたぁ」


けれどもすぐに創平さんに睨まれて、今度こそ窮地の実沢さんは弱った顔で首をすくめた。

厳かな空気が漂う中、本殿には神職や巫女、楽人の姿が窺える。
抜けるような空の青と、絵筆でさっとなぞったような白い雲、紅葉した葉が揺れるとても美しい景観に頬が綻ぶ。

お父さんとお母さん、お姉ちゃん、慎ちゃん。
小さい頃から知ってる優しい蔵人のおじちゃんたち、天川のおじさまも、みんなの笑顔で待っていてくれている。


「一生涯かけて守り抜くんだから、過保護になって当然だろ」


創平さんの高圧的で不器用な優しさ、自信に溢れた頼りがいのある人となり。

わたしの周りにある大好きなものすべてに感動して、胸がいっぱいでまだ挙式は始まっていないのにもう泣きそうだった。

お神酒は希望が叶うというので、北極星にしてもらった。
代々受け継いできた風土で造り手の思いを繋いでゆく酒造りのように、わたしもご縁を大切にして永遠に愛を育んでいきたいな。

心酔して止まない、愛おしい人と。


END
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