俺様副社長に娶られました



季節は巡って小春日和の大安吉日。
天川家が長い間、節目節目で訪れている歴史ある神社で、わたしは今日創平さんと神前式を行う。

白無垢に綿帽子の憧れの姿を身にまとい、メイクも終えた控室で、秘書の実沢さんが鏡越しにわたしと目を合わせた。


「奥様、とってもお綺麗です」


実沢さんは元から涙腺が緩いのか、それとも同じような立場だった半年ほど前の自分を思い出したのか、細い瞳の奥に涙を目一杯溜めている。


「実沢さん、ありがとうございます」


わたしが微笑むと、実沢さんの隣に立っていた人物がコホンと大げさな咳払いをした。


「ええと……、それでは私はゲストの皆様の様子を見て参ります」
「ああ、早く行け」


頭をポリッと掻いた実沢さんは、冷たい口調ですぐさま返した創平さんに対し苦笑いを浮かべる。
紋付羽織袴姿の創平さんは、凛々しくてとても素敵で、油断すると目が離せなるほどカッコよくて惚れ直してしまう。


「はい、では失礼いたします」


とても丁寧に頭を下げ、踵を返しかけたとき、実沢さんはわたしの背後でさっと身を屈めた。


「男のヤキモチは厄介ですね」


くすりと笑って、わたしに耳打ちをする。


「おい」


案の定、余計に機嫌が悪くなった創平さんにも飄々としたスマイルを向け、一礼した実沢さんは控室から出ていった。


「仕事が出来なかったら首にするところなんだが、あれで案外有能なんだよな」


チッと舌打ちをして、創平さんは恨めしそうに呟く。

新婚旅行を満喫した実沢さんは無事に仕事に復帰した。
越谷さんは、最近になって退職したそうだ。理由は海外留学をするためで、実は以前から決まっていたらしい。

だからわたしはその話を聞いたとき、もしかしたら越谷さんは自分が会社を離れる前に最後の望みをかけて創平さんを振り向かせようとしたんじゃないかと思った。
それとも創平さんに対して上司と部下の関係以上の感情があったのだろうという見立ては、わたしの思い違いだったのかな……。
それは、今となってはわからない。
< 106 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop