俺様副社長に娶られました



ぼうっとパソコンを眺める。
画面には慎ちゃんが作った、川原酒店のホームページが写し出されている。


「どうだ、沙穂。なかなかいい出来だろ?」


ITに疎い集団だったもので、これまでうちの蔵にはこのご時世にホームページすらなく、酒造組合のページに住所と小さな写真と、電話番号が載ってる程度だった。

それが創平さんの勧めでここまで進歩したらしい。慎ちゃんはちゃっかりパソコン教室に通っていて、SNSの更新ももはやお手の物だった。


「おおい、聞いてんのか? 沙穂。お前もっとしゃきっとしろよ。今日は天川さんが来るんだろ?」


その言葉に、わたしは机に付いていた頬杖をガクッと崩す。


「なんだその古典的な反応は。天川さんが来ることに動揺してんのか? 実家に来られるとなにか不都合なことがあるとか?」
「べ、別に不都合なんて……!」


手をぶんぶん左右に振って盛大に否定すると、余計に怪しいと思ったのか、慎ちゃんはニヤニヤと両目を細めた。


「ふーん? うまくいってんだ。沙穂と天川さんのお陰で蔵も安泰だな」


わたしは複雑な表情で曖昧に笑った。

創平さんが元気になって、三日ほど経った。
あの甘酒を作った翌日に、創平さんは元通りの体力に回復していた。
「季節の変わり目に風邪を引くこともあるけど、一晩寝れば治る」と、創平さんの部屋でひとり目を覚まし、慌ててリビングに走ったわたしに創平さんは平然と言った。

わたしの体には、毛布がかけられていた。


『感染っても知らねぇぞ』


あれが夢だったのか、現実だったのかは定かではないまま。
創平さんは普段通りの態度でわたしに接してくるので、わたしも問うことなんて出来ずに、キスのことは胸の奥に仕舞っておいている。


「こんにちは、沙穂ちゃん、慎一」


直売所の入り口のドアが開き、入って来たのは冬季間だけ酒造りを手伝ってくれている農家の布施さんだった。


「わあ、布施さん久しぶり! どうしたんですか⁉」


布施さんはお孫さんの泰生くんがわたしと小さい頃から仲が良かったこともあって、蔵人の中でも特にわたしを可愛がってくれる。
酒造りが終わった春になって、蔵に顔を出すのは珍しい。


「今日、沙穂ちゃんの旦那さんが来るって社長から聞いたから、どんな人か見に来たんだよ」
< 60 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop