俺様副社長に娶られました
布施さんは顔中に皺を深く刻んで、にっこりとわたしに笑いかける。


「わ、わざわざ創平さんを見に……?」
「だって気になるだろう? 可愛い孫のライバルなんだから」


おどけた様子で布施さんは肩をすくめる。


「ラ、ライバル?」


布施さんの意味不明な言葉に、わたしと慎ちゃんは一様に顔を見合わせた。


「沙穂ちゃんが結婚したら泰生が寂しがるなぁ。あいつは小さい頃から沙穂ちゃんに懐いてて、沙穂ちゃんがいるからここで酒造りをしたいって情熱を燃やしてたのに」


布施さんが気を落としたように言ったときだった。

布施さんが入って来た直売所の入り口の扉が開いていて、ふっと風が入って来たのかと思い顔を向けると、人影が見えたのでわたしはギョッとした。


「天川さん! わざわざお越しいただいて、ありがとうございます!」


とっさにそばまで歩み寄って出迎えた慎ちゃんが、直売所内に響き渡るような大声で言い、仰々しく頭を下げた。


「いえ、とんでもない。こちらこそお忙しいところお時間を拝借してどうもありがとうございます」


家族対応仕様の創平さんは、穏やかな態度で慎ちゃんに言うと、とても丁寧な所作で布施さんにも一礼した。


「あ、あのっ、事務所に案内します!」


といっても直売店のすぐ裏で繋がってるんだけどね。

しかしわたしが手で指し示しても、創平さんは無反応だった。笑顔を浮かべるわたしの真横をスッと通り過ぎる。

……あれ?
わたしの顔を、見もしなかった……?


「沙穂、創平さんは直売所に来たことあるんだからおわかりのはずよ」


事務所に通じるドアからひょっこり顔を出したお母さんが、わたしの空回りっぷりに見かねて言う。


「あ、そうなんだ……」
「それより、お茶をお願い。お父さんももう事務所で待ってるから」
「はい」


創平さんたちが事務所に入ってゆくと、布施さんが邪魔になるといけないから、と言って帰って行った。
わたしは実家のキッチンでお湯を沸かし、四人分のお茶を淹れてお盆に乗せると事務所に持って行く。

こういうとき、わたしのおっちょこちょいっぷりが炸裂するんだよな……。
零さないように慎重に足を進め、事務所のドアをノックする。
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