最初で最後の愛の話
僕と愛は年齢は同じだ。しかし、三十代の終わりになる頃には夫婦には見えなくなってしまった。まるで、歳を取った母親と息子だ。
「ごめんなさい」
体も無理ができなくなってきたようで、夕食の支度も休み休みになってしまった。スタイリストの仕事はとっくの昔にウェルナー症候群のせいでやめてしまっている。今は、自宅で手作りのアクセサリーを作って販売しているんだ。
「大丈夫だよ」
僕は微笑み、愛を椅子へと誘導する。愛の手にはシワがいくつも入り、僕の手とは全然違うものになってしまっていた。
「ごめんなさい」
今にも泣いてしまいそうな愛に、僕は優しくキスを落とす。そして「愛してる」と言った。
愛が鏡を見て申し訳なさそうな目をするたびに、不安げな目で僕を見るたびに、僕は優しく愛に触れてキスをする。これも当たり前になっていた。でも、幸せなんだ。
もし、愛が普通の女性だったらと想像したことがある。でもそうしたら出会った時、愛はあんなに頑張り屋ではなかったかもしれない。そうすれば、僕は愛のことを見ることはせずお互い別の人を選んでいたかもしれない。そう思うと、ウェルナー症候群には感謝していた。