最初で最後の愛の話
でも、愛が老いて悲しい表情を見せることは胸が痛むんだ。大切な人には笑っていてほしい。だから、僕は小説の話をして、愛を散歩に連れ出して、ほんの一瞬でも愛が笑っていられるように頑張った。

「ほら、雀が鳴いてる」

公園のベンチに座り、僕は地面に降りている雀たちを指差す。トコトコと雀は動き回り、愛らしい。

「……可愛い」

愛はそう微笑み、僕は「だろ?」と笑う。僕が笑わないと。僕が悲しい表情だと、愛も悲しくなってしまう。

だから、僕はどれだけ悲しくても、切なくても、笑うことを決めたんだ。



それでも、運命はあまりに残酷すぎた。

「残念ですが、もう手の施しようがありません」

医師から言われた言葉に、僕は呆然となる。覚悟していたはずの痛みは、予想以上のものだった。

四十代半ば、愛は病院で末期の癌だと診断された。終わりの時間がついに目の前にまで迫ってきたのだ。愛を失うのが怖くて、泣いてしまいそうになる。
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