最初で最後の愛の話
「愛、そろそろ昼ご飯作るね」

一緒にいられる日を前以上に大切にし始めて数週間、愛といられる時間が愛しい。

僕は愛が不安にならないように、いつも手を握り、抱きしめていた。抱きしめている体は、あの時のように強くは抱きしめられない。優しくガラス細工に触れるように抱きしめる。

愛から離れ、キッチンに立つ。一人で立つキッチンはいつも広い。何度、こんな思いをしただろう。

「あ!卵がない。ちょっと買ってくるね」

僕はソファに座っている愛にそう言い、かばんを手にスーパーへと向かった。マンションからスーパーは近い。

卵を買い、急いで家に帰る。離れている時間がもどかしくて、心配で、不安でたまらなくなるんだ。

「ただいま!愛、すぐご飯用意するからね!」

そう言い僕がリビングに入ると、愛はソファに横になっていた。何か様子が違う。僕の胸がドクンと音を立てた。

僕の手からスーパーの袋が落ちる。グシャリと卵が割れる音がした。しかし、今はそれを気にしてはいられない。
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