婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 新さんは返事の代わりに私の後頭部に手を添えて上を向かせると、おでこにそっとキスをした。

 肩がビクッと跳ねてしまい、恥ずかしさから目を伏せる。

 けれど今度は顎を持ち上げられ、ゆっくりと迫りくる唇から逃れられなかった。

 柔らかくて温かな唇を合わせながら、壊れ物に触れるかのような優しい手つきで頭を撫でられて、ごく自然に気持ちいいと感じた。

 強張っていた肩からふっと力が抜ける。

 唇が離れた後も大きな手のひらは頭を撫で続けていて、いくら夫婦になったからといって、どうして急に抱きしめたりキスしたりするのだろうと疑問に思わずにはいられない。

 以前『俺の妻となるのなら絶対に幸せにする』と言っていた言葉通りになるように、彼なりの考えがあっての行動なのか。

 こんなふうにされたらどんどん気になって、大人の男性として強く意識してしまう。

 それでも彼の高い体温に包まれているのが心地よく、高鳴っていた心臓はいつしか静かで規則的な動きに変化していた。やがて待ちわびた睡魔がやってきて、深い穴に沈んでいくように眠りに落ちた。

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