婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「ね、寝てなかったんですね」

「そっちこそ」

 妙な沈黙が流れる。

 向かい合ったまま眠れるわけがないし、だからといって今さら背を向けられないしどうしよう。

「眠れないのか?」

「はい……」

「こっちにくるか?」

「へ?」

 そちら側に寝転んだところで、眠りにつきやすくなるわけがないだろうし。

 意図が分からなくて静かに見つめ返す。

「つべこべ言わず来い」

「なにも言っていませんけど」

「いいから」

 怒っているような口調ではないにしても機嫌がいいという感じでもない。

 基本的に言葉足らずである彼の気持ちを汲み取ることが多いけれど、さすがにこれは理解不能だ。

 でも新さんって自分から引いたりしない性格だから、私が折れるしかないのよね。

 頭に疑問符を浮かべながらのそのそと近寄る。

「もっとこっちに」

 強引に抱き寄せられて、微妙に取っていた距離がなくなる。

 細くて綺麗な首筋に顔を埋める体勢となり、頬に肌の質感と体温を直に感じて胸がドキドキと鳴ってうるさい。

「あの、これはいったい……」

 必死に声を喉から絞り出す。
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