婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 箱入り娘のままでは、いざ婚約破棄しても社会に適応できずに家事手伝いをする羽目になると考え、学生のうちにどうしてもアルバイトをしておきたかった。

「茉莉子はやりたい仕事があるのか?」

 こくりと頷いて、先ほどから全く動いていない箸を置く。

「大学卒業後は、お洒落で可愛いカフェで働いてみたかったです」

「やってみればいいじゃないか」

 さらりと言って味噌汁をすする涼しい顔を穴が開くほど見つめた。

「働いてもいいんですか?」

「別になんの問題もないだろう」

「ありがとうございます……」

 胸が嬉しさでいっぱいになってはちきれそう。

 働きに出なければいけない理由なんてないし、むしろ家事を完璧にこなして旦那様のサポートをするのが私の役目。こんなありがたい言葉をもらえるなんて、本当にどこまで私を甘やかすつもりなの……。

「家事はきちんとやりますし、ご迷惑は絶対におかけしませんので」

「そんなの気にしなくていい。茉莉子が外でたくさん働きたいなら、ハウスキーパーを雇えばいいだろ」

「とんでもないです! そこは妻としてきちんと務めさせていただきます」

「そう。好きにするといいよ」

 さっぱりとした物言いだけれど、私の行動に対して興味がないというわけでは決してない。その証拠に、私に向けられた声音や表情は穏やかだった。
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