【完】ねぇ、もっと俺に甘えてよ?


「わたしが小学生の頃の話なんだけどね?おばあちゃんが駅でひったくりにあって怪我しちゃったんだって。その時、たまたまその場に居合わせた男の人が助けてくれて……」



ひったくりにあった彼女のおばあさんを、男の人が助けた……?


それを聞いて、懐かしい記憶が私の中で蘇る。



「その時、その男の人と一緒にウチのおばあちゃんを家まで送ってくれたの。雨野さんのお父さんはその後も怪我の具合も心配して、何度か家まで足を運んでくれて。すごく嬉しかったって聞いたんだ……」



唖然と彼女の話を聞いている私に……、



「おばあちゃんを助けてくれて、ありがとね」



彼女は花が咲いたように笑いかけてくれた。


ぐっと喉の奥が熱くなって彼女の笑顔が滲んでいく。


思わず零れそうになった涙を堪えて、私は口を開いた。



「ありがとう……話してくれて。覚えていてくれて、ありがとう……」



────ねぇ、お父さん。


誰かを守りたいって言っていたお父さんの思いは、今でもちゃんと誰かの心に残っているよ。

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