騙し愛
目の前にある俊の顔。蕾は恋人のフリをしている社長とキスをしている。しかし、全く嫌ではない。むしろーーー。

何度もキスをし、母親は泣き喚くのをやめて呆然としている。俊はそれを見届け、蕾から唇を離した。

「では、失礼いたします」



車に戻り、ドアを閉める。蕾はさっきのキスを思い出し、胸の高鳴りが止まらなかった。顔を思わずそらしてしまう。

「……すまん」

ポツリと俊が呟き、蕾は初めて俊の方を見た。俊は両手で真っ赤な顔を覆っている。

「好きでもない男とあんなことを……。本当に、すまない。しかしあれしか思いつかなくて……。いや、ただの言い訳だな。もう殴ってくれて構わない」

そう言う俊に、蕾は「いえ、私はちっとも嫌ではないので。全然平気です」と言った。確かに恥ずかしさと驚きはあったが、嫌ではなかった。俊は手を顔からどける。

「全く……そんなことを言うから期待してしまうんだ!!」

突然そんなことを言われ、蕾は「えっ?」と固まる。俊は真っ赤な顔をしたまま、蕾を見つめた。
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