会長様の秘蜜な溺愛
「……昨日、麗の家に姫里さんの親が来たんだってさ」
「うちにも来た。相変わらず豪勢な手土産と一緒に、“学校での姫里をよろしくお願いします”っつって」
「やっぱり…そうだったんだ」
…あぁ、せっかくもやが晴れたのに。
すぐさま黒雲が立ち込めるのが分かる。
「…蓮の造り笑顔は、いつ見ても吐き気がするな」
――…菜穂。
もしも君に想いを告げたら
黒雲ももやも全て晴らしてくれる、小春日のようないつもの笑顔を
自分だけに見せてくれる可能性は、ほんの少しでもあるだろうか。
そろそろ限界だった。
この想いを留めておくのも
常に立ちはだかる蓮に対して、無関心を装うのも。
「…ねぇカナ。俺たちって所詮さ」
「……」
「あの人たちを超えられる日は、来ないのかもしれないね」
日向にしては珍しく
感情の見えない声色に、奏はゆっくりと瞬きをする。
…瞼の裏に浮かぶ記憶は
昔、黒で塗りつぶしたはずなのに。
「…それでも俺は、蓮みたいに途中で全部投げ出したりしねぇよ」
暖色の感情と寒色の感情
どちらも押し合っている窮屈な心の中で
何が最善な方法なのかを模索しても、奏には分からなかった――…。
◇◇◇