会長様の秘蜜な溺愛




――コンコンコン



「…蓮、いるだろ?」



控えめな声が聴こえてきて

再び固唾を飲んで息を殺す。

うるさく止まない心臓の鼓動に、一層身体を縮こませた。

額にそっと手を当てると、まだ熱を帯びていた。


(…この声って、もしかして…?)


「お前だと思ったよ。ヨミ」

「1人の時に鍵かけるのは勘弁してって言ってるだろう…。役員でも鍵持ってるのは蓮だけなんだから」

「オレみたいにスペア作れば良い話だな」

「僕は危ない橋は渡らない主義だ」



ヨミ。


何度も聞いたことのある、落ち着いたその声に

わたしの予想は当たっていたのだと確信する。


桔梗の「王子」こと、暦先輩だ。



「総会の話か?段取りなら全部組んである」

「そうだと思って組んだ紙を貰いに来た。もうセッティング始めようと思って」

「珍しく勘が冴えてるな」

「ははっ。喧嘩なら買うけど久しぶりにチェスでもする?」

「どうせお前が負けるけどいいのかよ?」

「最初から決めつけるのは良くないんじゃない?」


(え、ちょっと待って何この空気っ)


聞こえてくるものでしか感じ取ることは出来ないけれど

…わたしが勝手にイメージしていた、「プリンスと王子の微笑ましい会話」からは程遠いということだけは分かる。


…会長も会長でわざと挑発してるし

あの爽やかで紳士的な暦先輩から「売られた喧嘩は買う」なんて言葉が出てきたもんだからびっくりなんてものじゃない。


一体この2人はラウンジで、いつもどんなこと話してるの…!

< 98 / 370 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop