会長様の秘蜜な溺愛
――コンコンコン
「…蓮、いるだろ?」
控えめな声が聴こえてきて
再び固唾を飲んで息を殺す。
うるさく止まない心臓の鼓動に、一層身体を縮こませた。
額にそっと手を当てると、まだ熱を帯びていた。
(…この声って、もしかして…?)
「お前だと思ったよ。ヨミ」
「1人の時に鍵かけるのは勘弁してって言ってるだろう…。役員でも鍵持ってるのは蓮だけなんだから」
「オレみたいにスペア作れば良い話だな」
「僕は危ない橋は渡らない主義だ」
ヨミ。
何度も聞いたことのある、落ち着いたその声に
わたしの予想は当たっていたのだと確信する。
桔梗の「王子」こと、暦先輩だ。
「総会の話か?段取りなら全部組んである」
「そうだと思って組んだ紙を貰いに来た。もうセッティング始めようと思って」
「珍しく勘が冴えてるな」
「ははっ。喧嘩なら買うけど久しぶりにチェスでもする?」
「どうせお前が負けるけどいいのかよ?」
「最初から決めつけるのは良くないんじゃない?」
(え、ちょっと待って何この空気っ)
聞こえてくるものでしか感じ取ることは出来ないけれど
…わたしが勝手にイメージしていた、「プリンスと王子の微笑ましい会話」からは程遠いということだけは分かる。
…会長も会長でわざと挑発してるし
あの爽やかで紳士的な暦先輩から「売られた喧嘩は買う」なんて言葉が出てきたもんだからびっくりなんてものじゃない。
一体この2人はラウンジで、いつもどんなこと話してるの…!