恋はオーロラの 下で
私はスマホを片手に

ブレーキがかかった電車に気づいて

慌てて駅のホームに降りた。

乗り換える時間に余裕がないため

スタスタと歩かなければ次の電車に乗り遅れてしまう。

自分のスマホに写真が受信されたことに

何かとんでもない事態になったようで

山頂を目指す心境が揺らいだ。

取りあえず現地の山のふもと駅に着き

リフト乗り場の入り口に並んだ。

すでに10人ほどの列になっていた。

リフトの始発時間にはまだ15分ある。

帽子を被った。

山の冷気で髪が冷たくなってきたからだ。

待ち時間を利用して

先ほどの今日子からの強制的な紹介とやらの写真を見た。

「この人。」

スーツ姿できっちりとした印象だ。

彼が今日子の友達とは思えない。

私は首を傾げた。

記憶は薄かったが

今年の春に参加したトレッキング・イベントで

数あるグループの中のどれかにいたような気がした。

この人ではなかったかもしれないし

ちゃんと覚えていないし思い出せなかった。

今日子の会社内の人かもしれない。

とにかくメールすることに躊躇し

削除するわけにもいかないし

そのままにした。

ガチャガチャとリフトが動き出す機械音が聞こえた。

後ろを見ると列は先ほどより増えていた。

ざっと数えて20人くらいはいるだろう。

寒くなっても登山好きには行かないではいられない情熱を

さらに燃やしてくれる山のオーラを感じる。

ここまで登って来いという山の声だ。


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