懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
 目をそらし続けていると、名久井社長のしみじみとした声が聞こえた。

「恋人がいる気配はないなと思ってはいたが……」

 ……なんでバレてるんだろう?

 彼の指摘通り、私には恋人がいない。
 子どもが欲しいと思ったところで、一緒に子をなす相手がいないのが実情だった。
 だから私の願望はただの夢物語。


 私には叶えることが難しい夢なのだ。
 心の底から子どもを求める一方で、実は私、ワケあって絶対に結婚ができない。


 理由は誰にも言えないし、打ち明けるつもりもないのだけど……それでも諦められないくらい、私は子どもが欲しかった。

 子どもを欲しがるそもそもの理由は、きっと母との暮らしの中にある。記憶にある母との思い出がどれも色褪せないほどに楽しく、幸せなものだったから、漠然と私も〝将来子どもを産んで母と私のように愉快(ゆかい)に暮らす〟と思い描いていた。

 先日の同僚との会話でその思いは加速し、今ではどうやって結婚せずに子どもを産もうと真剣に考えるほどになった。
 傍から見ると冗談と思われるかもしれないが、一番仲のいい幼馴染の男の子に「父親にならなくていいから子どもをつくりたい」とお願いしようか迷ったくらいなのだ。


「そんなに子どもが欲しいのか」

 名久井社長の声に私を馬鹿にする様子はなく、その問いかけもとても親身なトーンに聞こえた。
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