懐妊初夜~一途な社長は求愛の手を緩めない~
 私はいろんな可能性を考えて怖くなる。
 突然上司に向かって「子どもが欲しい!」と宣言するような非常識な秘書は解雇されてしまうかもしれない。名久井社長の恩情でそこまではいかなかったとしても、伴侶なしに子どもだけを望む私は理解されず、距離をおかれてしまうかも。

(どうしよう……)

 考えたところで時間は巻き戻らず、途方に暮れる。
 年休も溜まりまくっていることだし、しばらくお暇をいただいて頭を冷やしてこようかな……。

 そんなことをぼんやり考えていると、目の前の社長が言った。

「いいだろう」

(……なにが?)

 言葉の意味が読めずに彼の目を見た。
 依然として頬に手が触れているのが段々恥ずかしくなってきた頃、社長は子どものように目を悪戯っぽく光らせて。

「俺の子種をやる。今晩空けておけ」
「……ほ?」
「それにしても派手に散らかしたな……宮内、そこ。デスクの下にも滑り込んでるから、忘れず拾ってくれ」
「えっ、ちょっ……えぇっ!?」

 社長ひとりに書類を拾わせるわけにもいかず反射的に自分もしゃがみ込んだものの、頭はまだ追い付いていなかった。

 一瞬前に言われた言葉が衝撃的すぎて。
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