私に攫われてください
「そうね。その方が安心だわ」

そんなことを話す両親に、ネビルは冷ややかな目をこっそり向ける。そして零時になるのを待ち続けた。

ネビルの正体は、クラウスだ。警察官に変装し、この屋敷に入り込んだ。ネビルというのはもちろん偽名だ。

警察手帳などを見せればそれほど疑われることもない。クラウスはそこに目をつけ、侵入した。刑事に認められれば、他の警察官はもう自分を疑うことなどない。滑稽な世界だ。

クラウスがエリーゼと出会ったのは、クラウスが怪盗になりたての頃だった。どこの屋敷に盗みに入ろうかと考えていた時に、ピアノを弾いているエリーゼを見かけたのだ。否、ピアノを弾かされていた。

ピアノ、勉強、ダンス、乗馬など一日中家の中に閉じ込められて習わされる彼女を見て、クラウスの中に特別な気持ちが浮かんだのだ。

他の貴族の令嬢は、これが決まったことだから、お金がない民とは違って幸せ、と思いながら習い事をこなす。親の決めたことに逆らわない。結婚であっても……。
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