私に攫われてください
無理に決まっているのに、とエリーゼは言いたくなるのを堪える。

昨日の夜、エリーゼの前に現れたのは、世間を騒がせている怪盗クラウスだ。白いシルクハットとスーツ姿で数多くの宝石を盗み、警察の網を潜り抜けている。そんな天才に敵うはずがない。

「エリーゼさん、これからは一人にはならないようにしてください。我々警察があなたを常に警護します」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

幼い頃からずっとしてきたため得意になった作り笑いをエリーゼは浮かべる。横を見れば、両親がまだ刑事に喚いている最中だった。

馬鹿らしい。早くここから出て自由になりたい。そう思いながら、エリーゼは窓の外を見つめた。



それから、エリーゼが部屋に移動する際には必ず警察官が警護をすることになった。両親からは屋敷から出ることを禁じられ、部屋に籠るしかない。

「もうすぐであの人が迎えに来てくれる……」

軟禁されているような状態におかしくなりそうなエリーゼは、何度もそう呟いた。
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