私だけのヒーロー
何にも興味がなくてやる気がない無気力男子に見えて、たっくんは天然のモテ男なんだと、改めて確信した。
こんなこと言うのは私だけじゃなくて、きっと他の女の子たちにも言ってるんだろう。
ここで変に期待しちゃダメだ。
モテ男=遊び人に違いない。
辛くなることが分かっている恋愛をするほど、私は器用じゃない。
好きになっちゃいけない、好きになっちゃいけない…………心の中で何度も呪文のように唱えた。
「よし、じゃあ、家も近いことだし一緒に帰ろう!」
自分の中で、たっくんとの間にひとつ線を引いたら、気持ちが落ち着いてきた。
ただの幼なじみと、家が近いから帰るだけ。
……そう、何度も言い聞かせ教室を出ようとした。
「そういえばさ、さゆは何で教室にいたの?」
たっくんのその一言で、ハッとさせられ、忘れていた大事なことを思い出した。
「スマホ! スマホを教室に忘れてたからそれを取りに来たんだった……」
早足で自分の机の中からスマホを取り出してきた。
あまりの自分のドジっぷりに、たっくんを見ることができず、自分のカバンで自分の顔を隠し、蚊の鳴くような声で「ごめんなさい」と謝った。