私だけのヒーロー



やっとさっきのドキドキが収まってきたのに……。

それに加えて、抱きついたときにほのかに香った甘い匂いがドキドキを加速させる。



「たっくん、何か香水つけてる?」



ドキドキをかき消すように、話をして気を紛らわせることにした。



「香水? つけてないよ?」

「そうなんだ。 さっき抱きついたときに甘い匂いがしたから、香水つけてるのかなぁって思って……」

「あ、じゃあ、ボディソープだ。家族で同じの使ってるからそれの匂いだと思う」



甘い匂いの正体が、香水ではなくボディソープというところが、なんともたっくんらしい。



「でも、甘い匂いする?」



自分の腕を嗅ぎながら、たっくんはそう言って、私の鼻に右腕を近づけてきた。



「するする! すごい甘い匂いするよ!」



突然のことに驚いてしまい、本当は匂いを嗅ぐ余裕なんてなかったけど、とっさにそう答えた。



新学期初日、助けてくれたときから思っていたけど……やっぱりたっくんは、女の子慣れしているに違いない。



たっくんにとって、私は数多くの女友達の中のひとり。

だからこそ、たっくんはこんなに近距離でも、余裕があるんだ。



そんなこと、ずっと前から分かっていたはずなのに……分かっていたことなのに、なぜかショックを受けている自分がいた。



あぁ、そうか。

私自身、過去のトラウマから男の子が苦手で話すことすらできないから、異性と普通に接することができるたっくんのことが羨ましいんだ。



私とは違う生き方をしているたっくんに、私は嫉妬しているんだ。



「とりあえず、駅に向かおう」



そう言って歩き出すたっくんの背中は西日に照らされて、オレンジ色になっていた。



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