私だけのヒーロー
「ちょっとちょっと、本気で怒ってる感じー? 冗談に決まってるじゃん! あ、もしかして、2人付き合ってる感じか!」
無言の威圧をかけるたっくんに、さすがにヤバいと思ったのか、羽鳥は一歩下がり、今度は私たち2人をからかい始めた。
「付き合ってないよ。たまたま一緒に帰ってるだけ」
この人はあっという間に根も葉もない噂を広めかねない。
たっくんが私と付き合ってるなんて、そんな迷惑きわまりない噂を流されたらたまったもんじゃない。
自分のためには無理でも、"たっくんのため"と思ったら、勝手に口が動いていた。
羽鳥は、私に反論されたことがよほど悔しかったのか、それ以上は何もしてこず、あっけなくどこかへと行ってしまった。
羽鳥がいなくなったことで、張り詰めていた気が緩み、私はその場にしゃがみ込んだ。
「さゆ、大丈夫?」
たっくんは、私と同じようにしゃがんで、私の頭を撫でてくれた。
「うん、大丈夫。ありがとう。たっくんのおかげで、勝てた気がする」
「完全に勝ってたよ。最後のさゆ、かっこよかった」
そう言ってくれるたっくんに、私はどれだけ救われただろう。