君 色。 <短>



夕暮れが少しだけ速くなった気がする秋口。

グレイの雲がオレンジに染まると、無意味に切なくなる。



あぁ……

ずっと昔、焦がれるほどに思い続けた、あの人の好きだった色だなって。


まるで、思い出せって言われてるみたいに蘇る。



……なんてね。

ただの昔話だけど。




恋人という呼び名に何の意味も見出せない私の“恋人”が、完全に見えなくなると

私も流れていく人波に身を任せ、漂うように吸い込まれていく。


いい加減、この見慣れた風景に息が詰まりそうになる。



こんなに隙間のない中にいても、私の胸の中は空虚だ。


誰も見てくれない。

誰か、私だけを見てくれる真っ直ぐな瞳が欲しい。



嘘つきで平気な顔して言い訳してる毎日。


こんなワガママで強情な自分の性格、嫌いなわけじゃないけど……

固すぎる心に、やけに疲れる時もある。

 


この人混みも、薄汚く並ぶビルも、

年を重ねるごとに増えていく無意味なプライドも……


何もかも全部、余計なものを取り去ったとしたら――


その時、私の前に現れるものは一体何なんだろうか。



おとぎ話みたいなどんでん返しじゃなくていいから

誰か、たった一人現れただけで、私の世界を変えてくれる――

    

ちょっとだけ……

そんなドラマを、まだ夢見ていたりする。



……呆れた戯れ事。

今の私は、どっちかっていえば魔女のくせにさ。


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