もうそばにいるのはやめました。


まだ声色は震えていた。


真っ暗闇でも今どんな表情をしているのかなんとなくわかった。




『たしかに円くんはすごく態度悪かったし、冷たかったし、ひどいなって思ったことはたくさんあるよ?』


『……ごめん』


『でもそれ以上に助けられたから。冷たくされた分、優しくもされたから』


『え……?』


『だからいいの。わたし別に怒ってないし、嫌ってもないよ。謝ってほしくもない。逆にわたしが感謝しなきゃいけないくらいだよ!』




許すとか、許さないとか。

きっとお互いいらないよね。



ちょっとの悲しい気持ちは、かすり傷。


そのくらいで嫌いになれないよ。



わたし、そんな弱くないもん。




『……ほんと、お前って……』


『あ、でもひとつだけ、聞いてもいい?』


『ん?』


『今もわたしのこと……嫌い?』




至近距離で覗きこめば、プイと顔を逸らされた。


手のひらが少し汗ばむ。



『……わ、わかんだろ』


『言ってくれなきゃわかんないよ!』



言葉で聞いちゃった「嫌い」は

ちゃんと言葉で上書きしてほしい。



『……も、もう嫌いじゃ、ねぇよ』



いつの間にか震えは止まっていた。


ぎこちない言い方も、不器用さも、なんだかかわいかった。


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