くちびるが忘れない
いつものアノ匂いがふってきて


いつもの角度


左斜め後ろ45度から触れる


冷たい唇


耳を掠めて


頬をなぞって


焦らすように私の唇の端っこを


ペロッと舐めた


それが合図で唇を開く私に深いキスを落としていく


瞬間頭の中が真っ白になった


ぼぉっと魔法にかかったみたいに…


ガサッ


『…ッ!』


力の抜けた手から滑り落ちた紙袋にビックリして


何してる?!


しかも矢野将太郎と!


会社で!キス!?


慌てて振り払って距離をとる


と言っても実際触れてたのは唇だけで


矢野将太郎は何てことない無表情


ただ…


足元に落ちた紙袋を拾って渡された時


一瞬口角がキュッと上がった気がした


笑われた?


『ありがとう…ございます』


何だかよくわからずお礼言っちゃってるし


こんなとこでキスされてお礼?!


パニクってアタフタで


でもムカついて


『や…課長!セクハラです!』


声裏がえってるし


セクハラって言うの遅っ


何を叫んでんだ?


矢野将太郎は目を細めて私を見下ろし


フッ…


鼻で笑い


「そうだな」


認めた


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