くちびるが忘れない
『あ…りがとうございます』


わざわざ渡さなくてもデスクに置いといてよ


極力手に触れないように受け取った後は


沈黙がかなり重い


EVホールに矢野将太郎と2人きり


前を向いたまま息苦しさを感じてた


何で同じタイミングで帰るかな


間が保たなくて身じろぎしたら


紙袋がガサッと音をたてた


………お礼言わないよ


しかしめっちゃEV遅いよ!


って…


EVがきちゃったらアノ狭い空間に2人きり?


うわぁ~


さらに気まずい


チンッ


節電で薄暗かったホールに明るいEVの光が差し込む


「どうぞ」


開いたドアを押さえて私を促す矢野将太郎


…無表情


逃げるわけにも行かず乗り込んだ


ん?!逃げる?


何で私が逃げなきゃいけないの?


操作パネル前に立って1階を押し隅に寄る


矢野将太郎は奥に入って背中に気配だけビシバシ感じてた


何でウチの部署は22階なんかにあるんだ?


1階が遠すぎるぅ


息をするのも何だかはばかられ


背筋ピンッと伸ばして電光パネル見上げて


15…14…13


一気にフリーフォールみたいに落ちちゃえ~


ビクッ


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