君がいれば、楽園
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「俺のバイト先に、夏加がポインセチアを買いに来たとき……どうして連絡先を交換しなかったんだとずっと後悔していた。あの時は、いつも遠くから見ていた夏加が目の前にいて、普通に会話しているのが夢みたいで、全然、そんな余裕なかったんだよなぁ」

「……それって」

「だから、二度目のチャンスを無駄にしたくなかった。今度は、絶対後悔したくなかった。図々しいと思われても、強引でも、とにかく夏加との縁が切れないように必死だった。それなのに……ようやく思う存分、夏加の世話ができる立場を手にしたのに、ほかの人を好きになるなんてあり得ない」

 さんざん泣いたから、もう一滴も出ないだろうと思っていたのに、涙があふれた。

「わ、たし……会えたらいいなって思ってた」

 郊外の園芸用品店に出向いたのは、偶然目にした雑誌のインタビューで、品ぞろえがよくて気に入っていると彼が話していたから。

 院へ進まず、この土地で働くことを選んだのは、彼もここで頑張っていると知ったから。

 アイビーを大事に育てていたのは、いつか彼に見てほしかったから。

 あの日生まれたわたしの想いは、たくさんの葉をつけ、膨らんで、小さな鉢では窮屈になるくらい、大きく育った。

 彼がアイビーに触れるとき、わたしの心にも触れる。

 だから、アイビーだけは特別だ。
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