君がいれば、楽園
 きゃはは、と笑うカナコは心底面白がっているようだった。

 驚きの新情報に、仕事に穴を開けて申し訳ないという気持ちが綺麗さっぱり消えた。
 もちろん、取引先に迷惑をかけるわけにはいかないので、丸投げするつもりはないけれど。

 カナコとの電話を切ると、冬麻がちょうど病院のコンビニから戻ってきた。

「新製品があったから、買ってきた」

 さすが冬麻だ。泣き疲れたわたしが、甘いものを欲するとわかっている。

「ありがと……」

 左手を伸ばして受け取ろうとしたところで、固まった。

 見慣れぬものが、左手の薬指にいる。

 銀色の金属はシルバーではないだろうし、キラキラ輝く透明な石もガラス玉なんかではないだろう。

「こ、ここ、これ……」

 左隣に座った冬麻は、中途半端に伸ばしたわたしの手を取り、薬指にくちづけた。

「やっと気がついたか。夏加が左利きでよかったよ。怪我をしたのが左手だったら、挨拶に行く前に、嵌められなくなるところだった」

「挨拶って……」

「結婚の挨拶に決まってるだろ」

「けっこん……?」

「血痕じゃなく、結婚ね」

 目を見開くわたしに、冬麻はにっこり笑った。

春陽(はるひ)、俺と結婚してほしい」
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