君がいれば、楽園
 めまいがして、頭が真っ白になった。

 ここが病院だということも。

 自分がすっぴんで、昨夜さんざん泣いたせいでこれまでの人生の中でもワーストワンに匹敵する不細工具合だということも。

 缶コーヒーを飲むふりをしながら、興味津々でこちらの様子を窺っているおじさんのことも。

 気にならなくなって……返事をした。

「……はい」

「よし。じゃあ、帰ろうか」

 手を引かれて歩く。

 足が地についていないのは、抱えられているせいではない。

 ふわふわした心地でタクシーに乗り込み、ぼんやりしている間に、冬麻がアパートの住所を告げる。

 なにげなく見上げたバックミラー越しに、運転手と目が合った。

 優しいまなざしが、『よかったですね』と言っていた。

 昨夜、お世話になった運転手だった。

「あ! 春陽、あれ……」

 冬麻が、窓の外を指さす。

 見れば、サンタ帽を被った小さな女の子が公園で雪だるまを作っていた。

 母親らしき女性が傍で見守り、一緒に雪玉を転がしているのは……弟だ。

 降り積もった雪が明るい日差しに反射して、キラキラ輝いていた。
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