【女の事件】黒煙のレクイエム
第25話
「離してよ!!アタシは育児も結婚生活も人間もやめてしまった女だから生きて行くことをリセットしたばかりなのよ!!やり直しをしないと言ったらやり直さないわよ!!」

日付が変わって、9月1日の深夜2時過ぎのことであった。

川西市の市役所の近くにあるコンビニでふさえが万引き事件を起こして、ケーサツに逮捕された。

ふさえは、子供を置き去りにした容疑の他にも複数の事件を起こしていたので、さらに再逮捕の件数が増えて行くのであった。

ごんぞうの家では、さらに悲劇が続いて行く。

ごんぞうの父親が心臓発作を起こして倒れて大阪池田市の救急病院に運ばれたが、心肺停止の状態だったので、集中治療室に隔離された。

そんな中で、ごんぞうは職場の勤務態度や成績が悪くなっていた。

ごんぞうは、職場で問題を繰り返していたので、深江さんはごんぞうには工場をやめていただくより他はないとご立腹になっていた。

同じ頃、工場も経営が苦しくなっていたので、9月いっぱいで閉鎖をすることを決めていた。

9月6日の朝9時頃のことであった。

工場の従業員さんたちの朝礼の時に、工場長さんは従業員さんたちに『大手の食品会社と結んでいました委託契約を破棄しました。』と伝えた。

その上で工場長さんは『今回の契約破棄の原因は工場長である私の自己の都合で決めましたので、全責任を取ります…従業員さんたちは…今月中に残っている仕事を全部仕上げてください…全部仕上げた後に今後の再就職先のお話し合いに入りますので…いつも通りにお仕事をしてください…よろしくお願いいたします。』と涙ながらに説明をした。

従業員さんたちの朝礼が終わった後に、いつも通りの仕事が始まった。

しかしごんぞうは、深江さんから『話があるので仕事をするな!!』と言われたので仕方なく休憩室へ行った。

ふたりは、休憩室にてこんな会話をしていた。

「ごんぞうさん…あんた無断欠勤を平気で繰り返している上に目上の人…とくに現場責任者のN山さんのことを『クソN山』と言うてののしってはるし…与えられた仕事を放棄したり…その上に従業員さんたちとドカバキの大ゲンカを繰り返して…従業員さんを次々とやめさせているみたいだな…」

深江さんは、ごんぞうが何も言わなかったので一体どうしたのかと聞いてみた。

ごんぞうは、深江さんにさげすんだ目付きで見つめながらこう言うた。

「オラ深江!!」
「何だねごんぞうさん…どうして急にそんな恐ろしい目付きで見つめながらイカクをしてくるのかな…私はしんどいのだよ…」
「オレ…こずえと離婚する…」
「ごんぞうさん…」
「オレ…疲れたのだよ…ぶっちゃけた話だけど…生きて行くのに疲れたのだよ…だから…この街にもいたくないのだよ…」
「そうか…ここにはいたくないのだな…分かった…ごんぞうさんは…ここにいたらイライラするだけだ…ごきょうだいたちがいざこざを起こすし…ご両親も無関心だし…こずえもハナダイドロボーして悪いと思っていないみたいだし…こんなことになるのだったら…結婚なんかせん方がよかったみたいやな。」

深江さんは、ごんぞうにこう言うた後、親きょうだいやごんぞうの学校の時の友人知人がいない、アタシがいない街へ行くように言うた後、従業員さんの寮と3食がついている宇治市の繊維化学工場の工場長さんに頼んでおくから、明日からすぐに行きなさいと厳しく言うて、休憩室をあとにした。

この時ごんぞうは、深江さんの背中ををさげすんだ目付きで見つめた後にツバを思い切り吐いた。

「何をするのだね!!ごんぞうさん!!」

ごんぞうは、深江さんに対して『こんな工場に入れたのはオドレだろ!!思い知ったかバーカ!!』と言うた後、プイとその場から立ち去った。

深江さんは、ごんぞうからツバを思い切り吐かれた上にバーカと言われたので、こぶしをギュウとにぎりしめてワナワナと震えていた。

ごんぞうは、工場から立ち去った後に大阪までやって来た。

ごんぞうは、道頓堀川沿いの公園にいてひとりぼっちでワンカップの大関の1・5合の酒をのんでいた。

それから1時間後のことであった。

ぐでんぐでんに酔いつぶれてしまったごんぞうは、フラフラとした足取りで通りを歩いていた時に通りかかったチンピラ6人と肩がぶつかったので大ゲンカになってしまった。

「オラ!!どこ向いて歩いてやがる!!」
「何や!!やるのか!!オラクソチンピラ!!オドレらまとめてかかってこい!!」
「何やと!!やるんか!!」
「かかってこいや!!」

このあと、ごんぞうはチンピラ6人とドカバキの大ゲンカを起こしてしまった。

その頃であった。

アタシは、マンスリーアパートの部屋にて旅立ちの準備をしていた。

この日アタシは、コナミスポーツクラブのバイトをやめて、つばきちゃんと一緒に名古屋に行くことを決めたので旅支度を整えていた。

その時に、ごんぞうの母親がアタシの元へやって来て、どうしてもあやまりたいとアタシに言いに来ていた。

アタシは、ごんぞうの母親に『帰んなさいよ!!』と言うて追い返そうとしていたが、ごんぞうの母親はどうしてもアタシにあやまりたいと言うていたので、話だけでも聞くことにした。

アパートの居間にて…

ごんぞうの母親は、アタシにどうしてもあやまりたいと言うていたけど、アタシはごんぞうのことはうらみ通すと母親に怒った。

「あんたは一体何を考えてはるのよ!!アタシは、あんたがどんなにあやまってもこらえへんと言うたらこらえへんけん!!たとえどんな事情があっても…ごんぞうのことは一生うらみ通すから!!分かってはるのかしら!?」
「分かっているわよ…ごんぞうのことをこらえてくれだなんてアタシは言うてないわよ…こずえさんから一生恨まれることは覚悟してはるわよ。」

ごんぞうの母親は、ひと間隔を空けてからアタシにこう言うた。

「こずえさん…ごんぞうがろくでなしになってしまったことについて…悪いのは…母親であるアタシが全部悪いのよ…こずえさん…ごめんなさい…」

ごんぞうの母親は、アタシにこう言うた後、くすんくすんと泣き出した。

だけどアタシは、ますます怒った口調でこう言い返した。

「ふざけるな!!泣いてあわれみを乞うなんてこすいわよ!!どんなに泣いてもこらえへんと言うたらこらえへんけん!!」
「分かっているわよ…だけどね…ごんぞうの人生をズタズタにさせてしまった原因を聞くだけでもいいから…」

ごんぞうの母親は、34年前に赤ちゃんだったごんぞうを誘拐したことをアタシに打ち明けた。

「こずえさん…ごんぞうは…34年前に…曽根(大阪豊中市)のスーパーストアーにダンナとふさえと一緒に買い物に行っていた時に…ベビーカーに乗せていた赤ちゃんを…実のお母さんが買い物に夢中になっているときに…誘拐してしまったの…身代金500万円を要求する脅迫電話をかけて…身代金の取引現場に行ったの…だけどね…警察官が…無関係の男の人を逮捕してしまったことが原因で…身代金…受け取れなかった…」
「どうしてそんな悪どいことをしたのよ!!」
「ダンナが友人におカネを貸したのよ…ダンナが取引先の会社から受け取った預り金を…ダンナの友人が…『オカンが重病になった…入院が長期に渡るので…費用が高額になってしまう…少しでもいいからユウヅウしてくれ…』と言うてきたのよ…」
「どうして大事な預り金を貸したりしたのよ!!どうしてことわらなかったのよ!!」
「ダンナは断ったわよ…だけど…ダンナの友人は『オカンが死んだらあんたの責任だぞ!!』とわめいていたのよ…ダンナは仕方がないので500万円を友人に貸してあげたのよ…ダンナは、会社から500万円を弁償しろと言われた…500万円を工面しなければならなかった…だけど…1円も貸してくれるところはなかった…みーんな断られてしまった…他に方法がなかったけん、誘拐事件を起こしてしまった…ごんぞうを誘拐して身代金500万円を取ろうとした計画は失敗をした…ごんぞうをどうやって親元に帰すべきなのか…頭の中が大パニックを起こしていた…そしたら…ふさえを置き去りにしていたことに気がついたのよ…ふさえは…通りかかった買い物客の奥さまに発見されて保護されたけど…アタシ…『一体どこまで行っていたのよ!?おかーさんとおとーさんは心配していたのよ!!分かっているのかしら!!』と言うて…ふさえを…平打ちで叩いてしまった…ふさえは泣きながら…おかーさんとおとーさんキライ…暴力をふるうおかーさんとおとーさんいらない…と言ったのよ…アタシ…『出て行きなさい!!どこへでも行きなさい!!』と言っうた…そしたら…本当に親元から…離れてしまった…」
「34年前に悪どいことをしたけん、いまごろになって手痛いシッペ返しを喰らったのでしょ!!いいきみだわ!!」

「こずえさんの言う通り…今ごろになって手痛いシッペ返しを受けたわよ…けいぞうとしょうぞうは…ダンナが浮気をしていたミナミのナイトクラブのホステスの子供なの…しゅうさくは…ごんぞうが付き合っていたカノジョを妊娠させた…」
「何なのよ一体あんたたちは!!」
「こずえさん…ごんぞうがカノジョを妊娠させた騒ぎを起こしたときに…アタシはきつく言うたのよ…女の子の身体には命に関わる大切な部分があるからって…何度もきつく言うたのに…」
「きつく言うたけん、何じゃあ言いたいのかしら!?あんたは、はじめから育児をする資格なんかなかったのよ!!アタシが言うてはること、違ごとる(ちがっている)かしら!?」

アタシにどぎつい口調で言われたごんぞうの母親は、震える声で『こずえさんの言う通り…アタシは…育児をする資格なんかなかったのよ…』と言うて、激しい声をあげて号泣をしていた。

その後、ごんぞうの母親はアタシの前に1枚の証書を出してから、アタシにこう言うた。

「こずえさん…ごんぞうの生命保険の証書よ…ごんぞうが亡くなったら…1億円の保険金がおりるから…ごんぞうが亡くなったら…証書を持って保険屋さんに行ってね…」
「分かったわ…ごんぞうが死んだら…1億円の保険金が入るのね…そうするわ…」
「こずえさん…ごめんね…本当にごめんね…」
「アタシ…もう行くわ…アタシは…ひとりぼっちで生きて行くから…」

アタシは、メイク道具と着替えがぎっしりとつまっているボストンバックとさいふとスマホと貴重品が入っている赤茶色のバッグを持って、アパートの部屋から出発をした。

アタシが尼ヶ崎を出発してから2時間後のことであった。

(カンカンカンカンカン…ウーウーウーウー…ゴーゴーゴーゴー…カンカンカンカンカン…ザワザワ…)

川西市久代にあるごんぞうの家が激しい炎をあげて燃えていた。

地区の消防団の詰所のハンショウと中央消防署のけたたましいサイレンが鳴り響く中で、ごんぞうの家が激しい炎と恐ろしい黒煙をあげて燃えていた。

近所の住人が消火作業を心配そうな表情で見つめていた。

同じ頃であった。

大阪の道頓堀川沿いの通りで乱闘事件を起こしたごんぞうは、チンピラの男たちからシツヨウにけられた後、チンピラが持っていたトカレフに撃たれて殺された。

その頃アタシは、名古屋へ向かうJR東海道本線の上りの電車に乗っていた。

アタシは、ごんぞうと離婚をしたことを機に再婚をしないことを決めて女ひとりで生きて行くことを決意した。

アタシは…

新しい恋を始めることも…

再婚をすることも考えていないわ…

赤ちゃんを産んで育てることも…

考えてはいないわ…

アタシは…

ひとりぼっちになっても生きて行けるわ…

アタシは、そんなことを思いながら名古屋でまっているつばきちゃんのもとへと向かっていた。
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