【女の事件】黒煙のレクイエム
第3話
2008年6月8日に発生をした秋葉原の通り魔事件を境にして、アタシの人生の歯車はより大きく狂ってしまった。

父は、再び離婚と再婚を繰り返すようになっていた。

同時に父は、ちょっとでも気に入らないことがあると会社をやめて転職をすることも繰り返すようになっていた。

与えられた仕事に対して文句ばかりを言う、目上の人にたてつく、言葉づかいが悪いなど…

アタシは、そんな父のことを冷めた目つきで見るようになっていた。

父が原因で、アタシは何回学校を転校したのだろうか…

この時であったが、アタシの気持ちは高校進学をしたくないと思うようになっていた。

学校の勉強をおろそかにした結果、勉強をすること自体がイヤになっていた。

もうイヤ…

高校進学のことよりも…

今は…

疲れた体を休めたい…

このままだと…

アタシの気持ちは…

パンクしてしまいそう…

2010年頃、アタシは中学3年生になったが、卒業後の進路を考えるどころではなかった。

アタシは、2010年4月からは気仙沼市の中学校に転校をして、人生の再出発をしていた。

同時に父は『離婚と再婚を繰り返しません…職を転々とするようなことはしません…心を入れ換えてやり直すと決意をしたから…助けてほしい…』と実家の兄夫婦に泣きながら助けを求めていたので、兄からの紹介で市内浪板(なみいた)にあるカンヅメ工場に再就職をした。

与えられた仕事は、段ボール箱を折り畳むことと折り畳んで作った箱に製品を2ダースずつに詰めて行くかんたんなお仕事であった。

父の再婚のことについては、兄嫁さんの知人さんからの紹介を通じて、気仙沼市内にあるJF(漁協)の職員の38歳の女性(以後の表記は義母)と再婚をすることになった。

女性職員さんは、父と出会った時は出産を控えていて不安定になっていた。

兄嫁さんは、父に対して『(女性職員さん)さんは胎内に赤ちゃんがいて出産を控えていて不安定になっているのだから…』とクドクドと言うてから『今度は暴力ザタを起こさないでちょうだい!!分かっていたらはいと返事をしなさい!!』と突き放すような声で言うた。

新しい義母の胎内にいる赤ちゃんは、付き合っていた元カレの子供であったので、兄嫁さんは『胎内にいる赤ちゃんの父親はまじめなサラリーマンじゃないといい子に育たないから…』と言うてから、元カレはチンピラだから父親の資格なんかないと冒とくするだけ冒とくしていた。

アタシが新しい中学に転校をしてから1ヶ月後に、義母は女の子を出産した。

父は『今度こそは、いいお父さんになるから…よいオットになるから…』と言うて決意をしていたが、アタシは父の言うことなんか信用できないと思っていたので、さらにうらみをつのらせるようになっていた。

時は流れて…

2010年10月2日の午後2時過ぎのことであった。

場所は、JR鹿折唐桑(ししおりからくわ)駅から歩いて5分のところにある2階建ての借家にて…

家の中には、アタシと義母と義母の赤ちゃんがいた。

この時、義母の友人から電話がかかっていたので、義母は友人と電話でおしゃべりをしていた。

おしゃべりの途中で赤ちゃんが泣いていたので、義母は『赤ちゃんが泣き出したみたいなの…ごめんね…また電話をかけてね。』と言うて電話を置いた。

義母は、泣いている赤ちゃんを抱っこしてよしよしとなぐさめていた。

この時、義母はものうげな表情をしていた。

義母がものうげな表情をしている理由は、親しい友人がフラワーアレンジメントのお店の経営をしていて、お店がテレビのワイドショー番組で取り上げられて有名になって、今が一番いいときだと言うのを聞いたので、気持ちがブルーになっていた。

義母は、高校を卒業後に進学をする予定だった東京の女子大へ行くことを父親のお酒が原因で断念をして気仙沼市内のJFに就職をして酒のみの父親のためにガマンして働くことしか知らなかったので、気持ちがわだかまっていた。

その日の夕食の時であった。

家のダイニングのテーブルには、アタシと父と義母と赤ちゃんがいて夕食を摂っていた。

テーブルの上には、白ごはんとみそしるとにっころがしときんぴらごぼうとアジの開きとたくあん漬けが置かれていた。

義母が大きくため息をついていたので、父は義母にこう言うた。

「しゅうか(義母の名前)、一体どうしたのだ…深いため息をついているようだけど?」
「あのねあなた…今日…A美から電話がかかってきたのよ…フラワーアレンジメントのお店をしているA美から…アタシもやりたいことがあったのに…」

義母の言葉に対して、父はあつかましい声でこう言うた。

「何や!!またその話か!!」
「何なのよあなた…アタシがあなたにどんな悪いことをしたと言いたいわけなの!?」
「オドレがやりたかったことができなかったとオレに繰り返して言ってくるから頭にきているのだよ!!」
「だからどうしてアタシに目くじらをたてているのよ…アタシもA美のようにフラワーアレンジメントのお店を…」
「だからオレにどうしろと言いたいわけなのだ!?オレに助けてくれと言いたいのか!?」

この時、父の怒鳴り声に反応した赤ちゃんがビックリして激しく泣いていた。

「しゅうか!!何をぼんやりしているのだ!?赤ちゃんが泣いているのにぼんやりしていないで早く赤ちゃんのもとへ行け!!くだらないことを考えているヒマがあるのだったら育児に専念しろ!!分かっていたら返事をしろ!!返事もできないのか!?」

父に怒鳴られた義母は『分かったわよ!!』と怒って赤ちゃんのもとへ行った。

それからしばらくして、父は怒りのほこさきをアタシへ向けた。

「こずえ!!」
「何なのよ…」
「何だそのタルい声は!!それが親に対する口のききかたか!?」
「何なのよ一体…」
「こずえ!!オドレものらりくらりしているヒマがあるのだったら高校入試の準備をしろ!!同級生たちはみんな来年の3月に向けて受験勉強をしているのだぞ!!聞いているのか!?」
「聞いているわよ…だけど行きたい高校をどこにすればよいのか分からないのにどうしろと言いたいのよぉ…」
「いいわけばかりを言うな!!こずえの気持ちがタルいから進学先の高校が見つからないのだ!!どこの高校でもいいから高校入試を受けなさい!!早く行き先を決めろ!!決まったらお父さんに言うてこい!!分かったか!!」

父はアタシに思い切り八つ当たりをしてダイニングテーブルを離れた後、自分の部屋に入って、ちからを込めて叩きつけるようにふすまを閉めたあと、暗いへやの片隅でいじけていた。

何なのよ一体…

お父さんといい…

義母(おかあ)さんといい…

何なのよ一体…

アタシはこの時、高校入試の準備をすることをやめていた。

それくらい、気持ちがヒヘイしていた。

ところ変わって、気仙沼市仲町にある酒場街にて…

色とりどりのネオンが灯る酒場街は、土曜日の夜と言うことでたくさんの人たちが行き来していた。

腕ぐみをして歩いているカップルさんや女子会帰りの若い女のコたちなどで通りがにぎわっていた。

通りのスピーカーから、あいたかし先生の作詞作曲の歌で『女ごころ』が流れていた。

そんな中で、派手なシャツとダボダボのジーンズを着ているやくざ風の男とホステスの女が腕を組んで歩いていた。

やくざ風の男は、義母の元カレのギンゾウであった。

ふたりが腕を組んでイチャイチャしていた時であった。

折り悪く、ギンゾウの前にガラの悪いチンピラ4人が現れた。

「アニキ!!」
「どうした!?」
「ギンゾウがいました!!」
「ギンゾウ!!」
「ヤベ…逃げろ!!」
「オドレギンゾウ!!」

チンピラの男4人は、その場から逃げ出したギンゾウを追いかけ始めた。

「待てコラ!!」
「オドレギンゾウ!!」

ギンゾウが腕を組んでイチャイチャしていましたホステスの女がやくざの組長の愛人だった。

ギンゾウは、チンピラの男4人の怒りを買ってしまったので、頭の中で大パニックを起こしていた。

ギンゾウは、他にも女が原因でやくざ稼業の事務所との間でトラブルをヒンパンに繰り返していたので、ふだつきのワルであった。

そしてここから、最初の悲劇が始まりをつげた。
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