【女の事件】黒煙のレクイエム
第39話
その一方で、アタシに去られたたかよしの家は、深刻な問題が生じていた。

アタシが家出をした日に重病で倒れた義父は、県病院で緊急のオペを受けている時に手術医があやまって脳神経を傷つけてたことが原因で亡くなった。

てるよしとまさよしとみつよしがケーサツに逮捕されてしまった上に、あきよしが生きている間にケーサツ沙汰や裁判ザタになっている問題を起こしていたことが明らかになったし、たかよしもショッケン(日本食研)の製造工場の仕事をなまけるようになったけん、まさよしのお嫁さんは専業主婦を断念してパートさんをすることになった。

義母も、母恵夢の製造工場のお仕事を与えられた仕事に対して文句ばかりを言うたあげくに、やめてしまった。

2020年6月26日に、たかよしはショッケンから『職場実習に来ていた女性従業員さんがよくがんばっているので職場実習の従業員さんを採用するので、工場から今すぐに出て行きたまえ!!』と人事部長から言われたことに腹を立てて、人事部長を思い切りどついたあげくに『ショッケンの仕事なんかしたくなかった…やめたいと思っていたからちょうどよかったわ…安月給でやってられるかバカ人事部長!!』と言うてツバをはきちらした。

しまいにゃ、宮殿本社に行って、エントランスで奇声をあげて暴れ回って、周囲にいた人たちに暴行をふるうなどしていた。

たかよしがショッケンをやめたので、たかよしの母はどうしようどうしようとパニックになっていたところへ、たかよしの姉が家にやって来たので、さらにややこしい問題が発生した。

たかよしの母は、たかよしがショッケンをやめたので生活が苦しいと言うて、姉に助けてほしいと求めていたが、姉は思い切り怒っていた。

「あのねおかーさん!!アタシは相当怒っているのよ!!5人の弟たちの育てかたが悪いからケーサツ沙汰になったり裁判沙汰になったりDVの問題を起こしたと言うことなのよ!!そのことが分かってはるのに、どーして問題を放置していたのよ!!たかよしは職場で人事部長をどつきまわして、工場で暴れたあげくに、宮殿本社に行って、従業員さんたちにきつい暴行を加えてケガを負わせたその上に、エントランスホール中にショッケンの経営陣の悪口やひめごとなどをボロクソに言いまくったあと、数人の男性従業員さんたちをもので殴るなどしてめちゃめちゃにした…アタシね!!そんなボロい弟たちのめんどうは見るのはイヤやから!!おかーさん!!アタシが言うてはることが分かっとんかしら!?」
「分かっているわよ…おかーさんは…たかよしが職場で暴れてクビになった上に、裁判ザタになったけん、困っているのよ…」
「そう言うおかーさんこそ、母恵夢の工場のお仕事を文句ばかり言うてやめたんでしょ!!おとーさんがろくでなしだからおかーさんも弟たちもろくでなしになったのよ!!」
「分かっているわよ…だから…アタシひとりの力では対処できなんのよ!!」
「せやったら弁護士さんに頼みなさいよ!!…何やったらうちの知人に電話しとくけん、メイユウジャリ(ヤクザ組織)を立ててジダン交渉をお願いしとくから…」
「メイユウジャリって…」
「うちの旧友のヤクザの組長よ!!」
「ヤクザ…」
「おかーさんが弁護士さんたのめんと言うのであれば、ヤクザに頼むしかないのよ!!それともう一つ話があるのだけどぉ…アタシもね!!勤めているクラレの工場をクビになる恐れが出てきたのよ!!明日かあさってに解雇予告を受け取るかもしれへんのよ!!アタシも次の仕事を探すことで頭がいっぱいになってはるのよ!!あんたら、甘ったれるのもええかげんにしてよね!!またホームレスになって苦しい生活に戻りたいのかしら…今の状況では、ホームレスになるかヤクザ組織の親分立ててジダン交渉するか…ふたつにひとつしかないのよ!!他の方法なんてないのよ!!よーに考えといてや!!」

たかよしの姉は、大きくため息をついた後、ポーチの中からタバコを取り出してタバコをくゆらせていた。

さてその頃であった。

松山へ家出をしたアタシは、朝から晩まで3つのバイトを掛け持ちして生きて行くためのおカネをかせいでいた。

朝はNTT病院のリネン、昼はポポロ(パチンコ屋さん)の店内清掃、夜はファミマで…3ヶ所で4時間ずつ働いておカネをかせいでいた。

やさぐれ女で生きて行くことを選んだアタシは、新しい恋を始めることも再婚をすることも頭にはなかった。

アタシは、たかよしの家の人間がアタシにどんな形であやまって来ようとも絶対にこらえへんと怒っていたので、結婚に対する不信感がさらに高まっていた。

その日の夜のことであった。

アタシがバイトをしているファミマに、まさよしの嫁さんがやって来てアタシに帰ってきてほしいとお願いしていた。

アタシは、まさよしの嫁さんに対して『どんな形でアタシにあやまって来ようとも、アタシは家の人間のことをこらえへんけん!!』と怒っていた。

アタシは、ゴミ箱の整理をしながらまさよしの嫁さんにこう言うた。

「あんたね!!アタシにきつい暴力をふるっておいて、都合が悪くなったら助けてくれだなんてムシがよすぎるわよ!!アタシは、あんたらのことを一生うらみ通すことにしたけん、覚悟しときなさいよ!!アタシはバイト中なのよ!!用がないのだったら帰んなさいよ!!」
「こずえさん…どうしてもダメなのでしょうか…」
「せやから、アタシにきつい暴力をふるったたかよしは、どんなにあやまってもこらえへんけん!!ショッケンの工場の仕事に文句を言うたあげくに、宮殿本社で奇声を上げてめちゃめちゃに暴れて、そこの男性従業員さんたちにケガ負わせた…あいつはね!!何をやってもひとつのことが長続きでけん男なのよ!!だからDV魔になったのよ!!あんたもね!!ドコモショップの店長を死なせて店の商品をワヤにしてケーサツに逮捕された殺人鬼の妻を早いところやめた方がいいわよ!!」
「アタシは…義母さまから言われて…」
「たかよしのおかーさんから何を言われたか知らんけど、あんたのダンナは人殺しをしてケーサツに逮捕されたのよ!!『離婚よ!!』と怒鳴りつけて、離婚届を叩き付けるのがフツーでしょ!!それじゃあ、あんたはあいつの母親になんらかの恩義があるから離婚でけんと言いたいのかしら!!」
「そう言うことに…なります…」
「言っておくけれど、アタシはあいつの家には帰らへんけん!!へらみ(よそ見)ばかりせんとアタシの方を向いてよ!!」
「分かっています…こずえさん…どうしても家には帰りたくないのですね。」
「分かっとんやったら帰ってよ!!」
「帰るわよ…」
「だったら動きなさいよ!!店に居座る気なのかしら!!」
「居座る気はありません…だけど…このままでは帰ることができないのです。」
「はぐいたらしい(あつかましい)わねあんたは!!どうすれば帰るのか言いなさいよ!!」
「家に帰るのがイヤだったら…せめて送金だけでもお願いできますか?」
「イヤ!!ダンゴ拒否するわよ!!何でアタシがよーがまんできん(がまんできない)家におカネを送らないとアカンのかしら!?」
「どうしてって…生活が苦しいのです…アタシのパートのお給料だけでは生活をして行くことができないのです。」
「あんたね!!よーがまんできんような人間の家に送金をするおカネなんかは1文もないのよ!!」
「一文もないって…アタシたちにホームレスになれと言うことですか?」
「ええその通りよ!!アタシも、あんたたちにホームレスを強いられたけん相当キレているのよ!!今度と言う今度はあんたたちをこらえへんけん!!アタシはね!!今バイト中で忙しいのよ!!店に居座るのだったら、アタシの知人の組長を呼ぶわよ!!」

アタシは、まさよしの嫁さんに思い切り怒鳴り付けた後、バイトを再開した。

まさよしの嫁さんは、生活が苦しくなったので送金してほしいとアタシに言うてはるけども、アタシはよーがまんできんような人間がいる家に送るカネなど1文もないと怒っていたので、たかよしの家との間にできた溝はさらに深くなっていた。
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