【女の事件】黒煙のレクイエム
第53話
それから数日後のことであった。

アタシは、まさよが入院をしている千種区内の病院に行って、まさよのお見舞いをしようと思っていたが、面会謝絶だと言うことでまさよに会うことはできなかった。

医師から聞いた話によると、まさよは父親からシツヨウに暴力を受けたことが原因で、強い怒りが生じていて、極めて危険な状態におちいっているので、隔離病棟にて療養中のために面会謝絶の状態になっていた。

そしてまさよには、小さいときに父親から虐待を受けていた過去があったので、親きょうだい全員に激しいうらみを抱いていて、家族と話し合いができない状態になっていた。

アタシは、まさよがどうして親きょうだいに激しいうらみを抱くようになったのかが知りたくなったので、JR中央線の電車に乗って春日井市の新領駅まで行った。

JR新領駅の近くにあります和菓子屋さんにて…

和菓子屋さんのおばちゃんが、かつて大留町のひろゆきの家の近辺で暮らしていたことがあると聞いていたので、アタシはおばあちゃんにひろゆきの家の親きょうだいのことを聞いてみた。

和菓子屋さんのおばちゃんは、アタシにひろゆきの家のことについて『まさよのことについては深刻な問題があったのよ…そうとうサイアクな問題なのよ。』と言うてから、ひろゆきの父親がまさよのことが最初からにくたらしいと思っていたので、まさよに虐待を加えていたことをアタシに話した。

「にくたらしい…ひろゆきの父親はまさよのことがにくたらしいから虐待を加えていたわけなのかしら?」
「ええ、そうよ。」
「それはなんでなのよ?」
「原因は分かるわよ…ひろゆきのおじいちゃんが全部悪いのよ。」
「おじいちゃんが全部悪いって?」
「ひろゆきのおじいちゃんはね、女がらみのもめ事を繰り返していたのよ…まさよは…おじいちゃんが出入りをしていたナイトクラブで働いていたタイ人のホステスの子供だったのよ…ホステスはヤクザの組長の妻なのよ。」
「ヤクザの組長の嫁さんの子供って…」
「降りが悪いことに…ひろゆきの母親が流産をした直後の出来事だったのよ…」
「流産をした直後…」
「認知をして、家の戸籍には入れたのだけど…ひろゆきの父親は…怒り狂ってばかりいたのよ…気に入らないことがあったり、仕事上のトラブルでむしゃくしゃしていたら…真っ先にまさよに当たり散らしていたのよ…だけどね…ひさよにはかわいいかわいいかわいい…と溺愛するだけ溺愛をして愛情をたっぷり与えていたわよ。」
「男の子ふたりは…どうだったのかしら?」
「ひろゆきとひろのりのこと…ひろのりについては、父親がにくたらしいにくたらしいと思っていたわよ…ひろのりの実の父親はね…母親の幼なじみの男…チャラい男だったかしら…チャラい男の子供だったのよ…ホンマにかわいそうね…」

和菓子屋のおばちゃんは、アタシにひろゆきの家庭の事情を全部説明した。

アタシはおばちゃんから、他にもひろゆきの父親が経営している運送請け負い会社の事情についても聞くことができたので、ひろゆきの家への怒りがさらに高まっていた。

その日の深夜11時過ぎに、春日井市内の公園で恐ろしい事件が発生した。

平岡さんとの結婚が打ち砕かれた悲しみに包まれていたひさよは、家出をして路頭に迷っていた。

「えっ…何…イヤ…イヤ!!」

ひさよは、誰もいない深夜の公園にて、黒い目だし帽をかぶった男7人に捕ってしまったあと、公園の身障者用のトイレに引きずり込まれて、レイプの被害を受けてしまった。

翌朝9時過ぎに、深刻な事件が発生した。

春日井市内の肉屋さんにて…

この時、ひろゆきの父親が経営している運送請け負い会社の冷凍庫トラックが到着していた。

事件は、運転手さんが食肉を下ろそうとしていた時に発生した。

肉屋さんの主人が冷凍庫内にひさよがボロボロに傷ついて恥ずかしい姿で亡くなっていたのを見たので、恐ろしい悲鳴をあげたの。

こともあろうに、冷凍庫トラックを運転していたのは平岡さんを集団でいじめたグループのリーダーの男だった。

運転手の男は、肉屋さんの主人から『ケーサツを呼ぶから、その場を動くなよ!!』と肉切り包丁でイカクされた。

それから3時間後のことであった。

愛知県警のパトカー10台がひろゆきの父親が経営をしている運送請け負い会社にやって来た。

パトカーの中から、トレンチコートを着た刑事たちがドカドカと足音を立ててやって来た。

そして、出発の準備をしていた運転手の男6人を取り囲んで、逮捕状を出して書面をみせながら通告をした。

その間に、別の刑事たちがトラックの中を捜索していた。

その時に、黒い目だし帽とズタズタに破れた婦人衣服が見つかった。

「課長、ガイシャが着ていた衣服を発見しました。」
「よし!!物的証拠は整った!!6人の運転手をしょっぴけ!!」
「はっ!!」
「待ってくれ!!おれたちは違うのだ!!」
「証拠は出たのだよ!!逮捕だ!!」
「無実だ!!離してくれ!!」
「そうは行かないのだよ!!オラオドレら!!パトカーに乗れ!!」
「ケーサツに行きたくないよ!!」

従業員の男6人は、愛知県警の刑事たちから集団リンチを喰らったあと、パトカーに押しこめられて、警察署につれて行かれた。

その後、ひろゆきの父親が経営をしている運送請け負い会社では次々と欠陥が出始めていた。

労働保険などの保険に加入していない、自動車の任意保険に加入していない上に強制加入の保険にも加入していない…車両は全部車検切れを6年以上も放置しているなどで、会社は経営を差し止められた。

事件が発生した日の夜のことであった。

運送請け負い会社が明日から営業できなくなった。

明日からどのようにして生きて行けばよいのかわからなくなっていたけん、両親は大声を張り上げて大ゲンカを起こしていた。

「あなた!!一体どうするのよ!?従業員さんたちのために加入しなければならない保険に加入していない、自動車の任意保険と強制加入保険が入っていない上に、車検切れを長期間放置した状態で車で運転をしていたことなどが明るみになった…あなた!!」
「大声を張り上げるな!!」
「大声を張り上げたくもなるわよ!!あなたそれでも会社の経営者なの!?」
「会社の経営者だから苦しんでいるのだ!!逮捕された従業員6人が前科持ちであったことは始めから承知の上で雇ったんや!!何かの間違いであってほしいと思っているよ…そんなことよりも残された従業員さんたちのことで頭を痛めているのだから大声を張り上げるなと言ってるだろ!!」
「あんたね!!明日の朝になったらね!!運送の仕事がないのよ!!」
「だから!!明日になったら新しい仕事を取りに行くよ!!」
「無理よ!!現に車検切れで無保険の車ばかりの請け負い会社に仕事の依頼なんて来ないわよ!!平岡さんが運転していたタンクローリー車が塩酸を大量にたれ流した事故のが翌日に複数の会社から請け負い契約を破棄されてからまだ1ヶ月もたっていないのよ!!」
「だからどうしろと言うのだ!?裁判所に破産の申請をしろと言うのか!?」
「ええ、その通りよ!!裁判所に破産の申請をするしかないのよ!!」
「そんなことをしたらどうなるのか、分かって言うているのか!?」
「分かっているから裁判所に破産を申し出るのでしょ!!」

ひろゆきの母親は、運送請け負い会社を始めたいきさつを含めて父親に話した。

「あなたね!!この運送請け負い会社の経営を始めるときに、開業資金の一部を誰が出したのかが分かっていないわね!!会社の開業資金の一部はアタシの実家の父親が出資をして下さったのよ…残りの4分の3は信用金庫で受け取った融資で経営をして来たのよ!!その事をすっかり忘れているみたいね!!」
「そんなことは言わなくても分かっている!!」
「分かっているのだったら、残っている会社の債務をどのようにして整理をするのかを考えてよ!!債務超過の一歩手前に来ている会社をどうやって立て直すのよ!!うちはね!!義父の入院の費用などで出費が重なっているのよ!!まさよもひさよもいなくなってしまった…ひろのりは北海道でひき逃げをした…ひろのりが過去に起こしたもめ事の後始末のことも含めたらうちの家計は火の車よ!!」
「火の車になっているから、明日裁判所へ行けと言いたいのか!?」
「家のためを思って言うているのに、何なのかしら!!逆ギレを起こすことは一人前のくせに、頭の中は虫ケラクソ以下ね!!」
「何だと!!もういっぺん言ってみろ!!」

このあと、ふたりはドカバキの大ゲンカを起こしてしまった。

そして翌朝、ひろゆきの父親は破産宣告の申請をするために裁判所に行った。

しかし、裁判所に着いたとたんに足が凍りついてしまった。

ひろのりの父親は、裁判所に入らずに足早に逃げて帰った。

2025年8月16日に、ひろゆきの父親が経営していた運送請け負い会社の従業員さんたちが訴訟団を結成して、ひろゆきの父親を相手取って未払いのお給料をめぐって裁判を起こすことを決意した。

事態は、さらに深刻な状況におちいっったようだ。

ひろゆきの家の悲劇は、いよいよ最悪の場面へと続いて行くのであった。
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