【女の事件】黒煙のレクイエム
第6話
11月8日の午後3時40分頃のことであった。

この時、中学3年生の生徒たちは行きたい高校を決めて受験対策にのり出しているのに、アタシだけが高校入試の勉強をしていなかったので、担任の先生が義母を学校に呼び出して臨時の進路面談を行うことになった。

アタシと義母と担任の先生の3人で三者面談を行っている時であった。

担任の先生は、アタシの偏差値が極力低い状態になっているので今の時点では気仙沼市内の高校入試はムリですと言った。

担任の先生の言葉を聞いた義母は、気持ちを取り乱して頭がサクラン状態におちいっていた。

「高校入試はムリ…先生、何かの見間違いではないでしょうか?」
「いえ、見間違いではありません…今のこずえさんの学力では…市内の高校入試はもとより…となりの陸前高田市や大船渡市の公立高校の受験もできません…」
「どうしてそんなことが言い切れるのですか!?先生お願いです…公立高校がムリなら、せめて私立高校で家から車で行けるところでもいいですから…お願いです…こずえちゃんを高校に行かせてほしいのです。」
「担任としては、クラスの生徒全員が高校に行ってほしいと願っているのです…でもこずえさんの場合は学力が極力低い状態になっているからむずかしいといってるのです。」
「何なのですか先生は!!高校に行きたいと思ってがんばっている生徒にそんな冷たい言葉が言えるわね!!分かりました!!こずえちゃんは、中学を卒業した後はお見合いをさせまして16歳になったら入籍をさせて専業主婦をさせるので…学歴なんてもういらないわよ…こずえちゃん、帰るわよ!!あなたは高校に行かなくても結婚できるから…帰りましょう!!」

義母は、アタシの手を引いて家へ帰ることにした。

学校からの帰り道に、アタシと義母は南町の海岸の公園まで行った。

アタシと義母は、海をながめながら話をしていた。

「こずえちゃん、担任の先生が受験可能な高校がないと言われたのに、なんとも思わないの?行く高校がなかったら、困るのはこずえちゃんなのよ。」
「うるさいわねあんたは!!高校高校高校高校…だいたい何のために高校に行くと言うわけなのよ!?」
「なんのために高校に行くのかって…楽しい時間を過ごすために行く高校なのよ。」
「うるさいわね!!何が楽しい時間なのよ!!あんたが言うている楽しい時間とは何を言うのかしら!?」
「何って…たとえば…夏休みとか文化祭とか体育祭とか修学旅行…それに、恋…」
「あんたが言うている楽しい時間って、それしかないのかしら!!それじゃあ、中学を卒業して働いているコは楽しい時間がないからかわいそうだと言いたいのね!!」
「こずえちゃん…義母さんは、こずえちゃんに楽しい時間を過ごしてほしいから高校に行ってほしいというているのよ。」
「うるさいわね!!アタシ、楽しい時間なんかいらないわよ!!」
「それじゃあ、同級生の子たちが高校に行って楽しい時間を過ごしているのに、こずえちゃんだけは高校に行くことができなかったのでそんな時間がない…そんな人生はさびしいと思わないのかしら…」
「ゼンゼン思わないわよ!!そんなことよりも、やくざのギンゾウをはやいところ始末しなさいよ!?アタシはあんたとギンゾウのせいで高校へ進学することをあきらめたのよ!!もういいわよ!!」

アタシは、義母に思い切り怒鳴りつけた後、プイと背中を向けて、義母を置き去りにしてどこかへ行った。

同じ頃であった。

数日前に市内仲町2丁目の居酒屋でチンピラの男4人と乱闘騒ぎを起こしたあげくに飲食代を払わずに逃げてケーサツに一時拘束をされていたギンゾウは、カンヅメ工場の社長さんと一緒にギンゾウの本籍地の家がある亘理郡の半農半漁の小さな町へ行った。

ギンゾウは、本籍地の家のコシュの前で土下座をしてカンドウをといてほしいとお願いをしていた。

しかし、家のコシュは口をへの字に曲げてプンとしていた。

カッとなったギンゾウは、家のコシュの胸ぐらをつかんで突き飛ばしたあげくに、家の中を暴れまわって、家のキンリンで暴れしまった。

ギンゾウは、今回の一件で本籍地の家の近辺に行くことができなくなってしまった。

ギンゾウは、カンヅメ工場の社長さんと一緒に本籍地の家から5キロ離れた漁港まで行って話をしていた。

社長さんはギンゾウに頭を冷やせとさとしたが、今のギンゾウは、落ち着いて話をすることができなかった。

「もういいよ!!オレはもう…まともな暮らしをすることを今日かぎりでやめることにしたから!!帰るふるさとがなくなったけん、オレはやくざの世界に出戻るから!!」
「ギンゾウくん…頭を冷やして落ち着きなさい。」
「落ち着いていられるか!!コシュのオジにもう一度頭を下げてカンドウをといてもらえと言いたいのか!?だいたい何のためにカンドウをといてもらえと言うのだよ!?」
「何のためにって…帰るふるさとがなくなったら困るのはギンゾウくんだろ…そのためにカンドウをといてもらうのじゃないのかな…」
「オレはもう…家族いらねーよ…とっくの昔に離れてしまったのだよ…あんたは、こじれると分かっているのに、なんでいらないことをするのだよ!?」
「ギンゾウくん…しゅうかさんと離れたい…やくざ稼業の関係者と絶縁すると私に言うたよね…」
「言うたけど…全部口先だけのうそだよ…しゅうかのことをあきらめることができない…やくざ稼業の世界と絶縁をしたけれど…やっぱりカタギにはなれない…」
「ギンゾウくん…」
「これでわかったやろ!!オレ!!今日かぎりでカタギの暮らしとはオサラバするからな!!またやくざの世界に帰るからな!!アバヨ!!」

ギンゾウは、社長さんにアバヨと言った後、泣きながら走り去って行った。

結局ギンゾウは、再びやくざ稼業の世界へ戻ってしまった。

ギンゾウは、やくざと絶縁したとは言うたけど、絶縁したのは入り浸っていた組織だけで、完全に足を洗えていなかった…

…と言うのがスジでしょうか?
< 6 / 70 >

この作品をシェア

pagetop